妻による債務整理

いろいろな事情でお金が必要になり、消費者ローンから借りてしまった金。
相手に言えなかった結婚前からある借金。

相手には知られずに完済しようと返済を続けてきたが、最近返済が苦しくなりこの先が不安でしかたない。
できれば、債務整理をしたいが相手に知られたくない。
借金があることが相手に知れると夫婦関係にひびが入りそうで言い出せない。

夫婦と言えども、お金の話しは言いづらいものです。
妻が夫に黙って借金の返済しているケースも少なくありません。
妻が夫の収入を含めて家計を管理していることが多いので、家計から返済分を捻出して返済できている間は夫には知られずに済みます。

専業主婦の方も夫には家計の足しにとパート等に出て、そこから得た収入で返済することで夫には知られずに済むでしょう。

返済を順調に続けて完済できれば全く問題ありません。
しかし、返済が苦しくなってきているのに何も対策をせずに滞納したり、その場しのぎ的に借金返済のための借金を繰り返してしまうと、最終的に「いきなり自己破産」という手段しかなくなってしまいます。

自己破産は生活再建のために債務者に与えられてた法律的権利であり、司法書士としては返済がゼロになることで生活再建もしやすくなるので、必要な場合はちゅうちょすることなく自己破産手続きをおススメします。

ただ、自己破産はご本人にとっては大きな心理的なハードルがあるでしょうし、失格者の烙印のように感じる方もいらっしゃいます。
当然、夫には知られたくないと思われるでしょう。

しかし、妻が夫に黙って個人再生や自己破産をすることは簡単ではありません(収入のない専業主婦の方は個人再生は難しいです)。
手続きには、裁判所提出書類作成で夫に関する資料が必要になりますし、弁護士、司法書士支払う手数料を夫に黙って工面するのは容易ではありません。

ここでは、「個人再生」「自己破産」に至る前に夫に内緒で借金完済を目指す方法を司法書士が解説します。

対応手段

夫にバレないことが優先事項なので、とれる手段は限定されます。

「消滅時効」「任意整理」「特定調停」の3つの方法が考えられます。

「任意整理」「特定調停」においては、手続き後に返済を再開しなければいけないので、返済できる条件で合意し、返済のための資金を確保しなければいけません。
「消滅時効」は時効が完成していることが確認できれれば、時効の完成を援用(主張)した内容証明郵便を債権者に送るだけで済みます。

消滅時効

まず最初に検討するのが消滅時効による債務整理です。
時効が完成していれば、配達証明付内容証明郵便で「時効の援用」を行うことで借金は消滅します。
相手の承諾も交渉も何も必要ありません。
時効を援用する意思を相手に伝えるだけで時効は確定的に成立します。
※相手が内容証明郵便の受取を拒否したら、発送元に返送されそれを夫に見られてしまうおそれがあります。
万全を期すのであれば、弁護士や司法書士事務所から発送してもらうことをおススメします。

以上のように手続き自体は簡単ですが、問題は実際に時効が完成しているかの確認です。

知らない間に裁判をおこされていて判決が確定していた。
仮執行宣言付支払督促が確定していた。
気付かないうちに債務の承認行為をしていた。
等々の事情があると、時効が更新(進行していた時効期間がリセットされゼロからの再スタートになる)されていて、時効が完成していなかったということが起こり得ます。

滅時効期間の計算についてはこちらを参照下さい

任意整理

任意整理の特徴として、裁判所が関与しない、整理対象を選択できることがあります。

この特徴が秘匿性を高めています。
裁判所が関与しないので裁判所から送られてくる書類で夫にバレることはありません。
また、裁判所提出書類がないので、個人再生や自己破産のように書類作成に夫の協力が必要ありません。

任意整理では整理する借金を選ぶことができます。
自己破産や個人再生では全ての借金を整理対象にしなければいけません。知人や親族から借金をしている場合、裁判所から通知がいくので相手に債務整理したことが知られ、そこから夫にも知られるおそれが高くなります。

そこで、任意整理で知人や親族からの借金を整理対象から外すことで、知人経由で夫に知られることを防ぐことができます。

任意整理では、各債権者から取引履歴の入手後に将来利息の免除を中心に交渉していきます。
弁護士や司法書士に依頼をすれば、本人はこららの手続きに全く関与する必要はありません。
弁護士、司法書士から交渉の結果を聞いて、その内容で合意するかを判断するだけです。
連絡も携帯電話に時間を決めてすることで、夫に知られずに行うことができます。

秘匿性の面からみて、任意整理での債務整理が一番夫にバレるおそれが低く最適と言えるでしょう。
当事務所も、どうしても夫や家族、周囲に債務整理を知られたくないとご希望される場合、この任意整理をおススメします。

任意整理の問題点1

任意整理は、交渉後に返済を再開することが大前提です。

そのため任意整理後に再開される返済のためのお金の確保が必要になります。
共働きとして社員やパートとして働いているのであれば、その中から返済に回すことができますが、専業主婦の場合は収入がないので問題になります。

専業主婦の方でも任意整理は可能ですが、夫の収入をやりくりして返済することができるか精査が必要です。
場合によって、パート等を始めて新たな収入が必要になります。

任意整理の問題点2

任意整理をすると、いわゆるブラックリストに載ることになります。

日常生活への影響としては、クレジットカードが使えなくなることが大きいでしょう。

クレジットカード会社を任意整理対象から外せば引き続きカードを使用できますが、いずれカード会社にも任意整理したことが分かるので、分かった時点で、又はカード更新の時点で使用中止になるおそれがあります。

任意整理の問題点3

任意整理の交渉内容は、基本、将来利息の免除になります。

今ある借金額で固定し、今後利息はつけないようにする交渉を行います。
長期的に見れば返済総額を大きく減額できるのですが、月々の返済額を大きく減額させることは難しいです。

事例)
3社から40万円、計120万円(利息:17.8%)の借金を3年にかけて月4.3万円を返済しているケース:

上記では返済総額は約155万円になります。
任意整理で借金額を120万円に固定して将来利息である35万円を免除してもらうことで、任意整理後の返済は3年返済月3.4万円5年返済月2万円なります。

当初の返済期間と同じ3年返済とすると、毎月の返済額は4.3万円⇒3.4万円になります。
個人再生のように大きく減額ということはできません。

夫に知られずに任意整理で借金を完済するポイントは早期着手です。
大きく減額できない任意整理では、借金が大きくなりどうしようもなくなってからでは効果がありません。返済が苦しくなって、返済のために新たに借金するようなことは止めて下さい。
今月の返済額が4万円、3万円は用意できるが1万円足りないのでその分は新たに借り入れて返済するような一時しのぎを繰り返していると、あっと言う間に返済額は5,6、7万円と大きくなっていきます。
7万円になった時点で任意整理しようとしても、整理後の返済額5万円はとても払えない・・ということになり、残された選択肢は裁判所が関与する「個人再生」か「自己破産」に限定されてしまいます。
任意整理着手時期
任意整理後の返済は通常3年の36回払いで計画します。
借金額を36で割った額がおよその毎月の返済額になります。現在の収入、家計から返済できる額を出して、36で割った額がこの額を超える前に任意整理に着手することが債務整理を成功させるポイントです。

特定調停

特定調停は、債務者と債権者との間に裁判所(調停委員)が入って返済方法を決める手続きです。

調停委員が債務者の経済的状況を考慮し、債務者と債権者との間で新たな返済方法の合意ができるように調整します。

弁護士や司法書士に債権者との交渉を任せることなく費用を安く自身でできる債務整理方法です。

特定調停の問題点1

上記にも書いたように特定調停は調停委員が調整してくれるので弁護士や司法書士に頼む必要がなく費用を安く抑えられるのが最大の利点です。

しかし、自身で手続きを行うということは裁判所からの郵便物も自宅へ送られてくることになるので、夫へ知られる可能性が高まります。

特定調停の問題点2

債権者と間で調停が成立すると、調停内容に従って返済を再開することになりますが、調停成立により債務者にとってもデメリットな効果も生じます。

調停成立は「債務名義」になります。
債務名義になるということは、調停後、債務者が調停内容に反したこと、つまり滞納すると債権者はすぐに差押えができることになります。
働いている場合、給料を差押えられるおそれがあります。

任意整理の場合、返済再開後に滞納してもすぐに給料が差押えられることはありません。任意整理での合意は「債務名義」にならないからです。
債権者が債務者の給料を差押えるには、貸金返還請求訴訟をして判決をとったり、仮執行宣言付支払督促の手続きを経なければいけません。

特定調停の問題点3

特定調停でもブラックリストに載ることになるので、任意整理と同じようにクレジットカード等の問題が生じます。

最後に

夫に、家族に借金をしていること、ましてや返済できなくなって債務整理をしなければいけなくなったことを知られることは誰しも避けたいことです。

債務整理で秘匿性が一番高いのは任意整理です。
そして夫に知れずに任意整理を成功させ完済までもっていくには、「見極め」と「決心」が重要です。

任意整理で完済できる段階を見極めて、勇気を持って専門家に相談する決心をして下さい。