債務整理手続きには以下の3つの方法があります。
「任意整理」「個人再生」「自己破産」
自己破産は返済が免除されるので、手続き終了後は返済は不要になります。
ただし、税金、社会保険料等一部は返済免除されないので引き続き返済していかなければいけません。
「任意整理」「個人再生」については、手続き終了後、手続きにより減額された借金の返済を再開することになります。
通常、各手続きともに弁護士や司法書士が手続き後の返済の実現性を考慮した上で債務整理を行います。
任意整理では減額幅が小さく、現状の収入に対して整理後の予定返済額が大きければ、任意整理ではなく個人再生や自己破産をすすめ、整理後の返済破綻を出来る限り防ぐようにします。
しかし、返済可能と判断して行った債務整理でも、その後の予想外の雇用環境の変化、経済的変化により返済できなくなってしまうことがあります。
そのような場合、債権者は待ってくれるか? 再度、債務整理できるか? 自己破産できるか?
等々について、司法書士が分かりやすく解説します。
任整理後の返済滞納
任意整理手続きにおいては、基本的に将来利息(今後生じる利息)を免除してもらい、現状の借金を3~5年にかけて月額均等払いで返済していくことになります。
収入から必要生活費を差し引いた額と予想返済額を照らし合わせて返済可能と判断される場合に、この債務整理方法が採用されます。
しかし、3年、5年と長い年月の中で、突然リストラされたり、会社が倒産したり、病気で長期入院したり等様々な理由で返済ができなくなることも起こり得ます。
最初の任意整理手続きの中で滞納についても債権者と取決めをします。通常、滞納を2回すると「期限の利益」を喪失し、残金を一括で支払うよう請求できるとする取決めがなされます。
滞納1回はセーフ
1回の滞納であれば挽回は可能です。
次の返済日に2ヶ月分を支払えば問題ありません。ただし、滞納することになるので、事前に又は滞納後早急に連絡及び翌月にはまとめて返済することを債権者に伝えておきましょう。
翌月に2ヶ月分まとめて払えない場合でも、
例えば、遅れた分は通常の返済に0.5ヶ月を加えて翌月と翌々月の2回に分けて支払いたい、ボーナス日に支払いたい等お願いしてみて下さい。業者にとっても分割返済ができない相手に一括請求をしても回収の可能性は低いと思っているので、誠実に返済の意思を示せば了承してくれる可能性はあります。
また、返済が厳しい状況になってきて滞納をしそうな場合、初めの任意整理で対象にしていない債権があれば、その債権を新たに任意整理することで返済額を軽減し、2回目の滞納の回避を目指すことができます。
滞納2回はアウト
滞納を2回してしまうと、取決め通りに期限の利益は喪失し一括請求されることになります。
この場合、一括請求金額全部に対して遅延損害金(借入利息より高い利息)が発生してしまいます。
こうなると”滞納している分を後日支払います”等のお願いは聞き入れられないと思って下さい。債権者は任意整理の段階で既に将来利息のカット等の便宜を図っていますので更なる便宜を望むことは難しいです。
この場合、2つの選択肢が考えられます。
- 再度、任意整理をお願いする。
- 任意整理での返済を諦めて個人再生又は自己破産手続きを行う。
再度の任意整理
再度の任意整理に応じるかどうかは債権者次第です。応じない債権者もいます。
最初の任意整理による返済を滞納したということは、債権者にとっては約束を破られたことになるので、再度の任意整理のお願いは簡単ではありません。
債権者にとっては返済を受けるにも管理コストが発生します。再度、任意整理に応じて3~5年間管理コストをかけて返済を受けるよりも損失処理を望む債権者もいます。
任意整理に応じてくれる場合も、前回の任意整理より厳しい条件を提示していくる可能性があります。
毎月の返済額の増額、返済期間の短縮等を条件にしてくる場合があります。
債権者は返済、滞納という繰り返しの状態がズルズル長引くことを嫌い、きつい条件で任意整理に応じ対応出来なければ次の段階(訴訟や自己破産等)に移行することによる処理も視野に入れています。
任意整理以外の方法
再度の任意整理を拒絶されたり、現状の収入状況から任意整理による返済は難しいと判断されるような場合、選択できる方法は「個人再生」「自己破産」になります。
個人再生では1,500万円未満の借金であれば5分の1(最低100万円)と大幅に減額できるので返済環境がかなり改善されます。
自己破産をすれば金融機関からの借金は全てチャラになり返済する必要がなくなります。
両手続きには任意整理と異なり裁判所がガッチリ関与しているので提出書類も多く、官報にも記載されることになりますが、再度の任意整理で3~5年間それなりの額を返済していくより、大きく返済額が減る、または返済しなくて済むこれらの手続きの方が後々の生活を考えればメリットが大きいとも考えられます。
ただし、注意すべきは不動産の保有の有無です。
任意整理では、不動産を処分する必要はありませんが、自己破産をすると不動産は保有することはできなくなります。
個人再生においては、不動産の価値次第では借金5分の1減額のメリットを受けることができなくなります。5分の1に減額された額より不動産価値が高ければ、高い方の不動産価値が最低返済額になってしまいます。
個人再生後の返済滞納
個人再生手続き後の返済を滞納した場合、任意整理のように債権者と再度個人再生手続きを行うということできません。
ただし、個人再生の場合、裁判所も関与している手続きなので、返済に困った場合は任意整理と異なりいくつかの救済策が準備されています。
滞納1回
1回の滞納で個人再生手続きが取消しになるようなことはあまりありません。
支払が遅れるときは、遅れる前に、又は遅れた直後に債権者に連絡をとり、遅れた分の返済予定を伝えておくことが大切です。
ただし、法律上、1回の滞納で債権者は再生計画取消しの申立が可能であり、裁判所も申立を認め職権で破産開始を行うこともできるので、滞納してしまったら放置せず必ず債権者に返済の意思を伝えましょう。
滞納2回以上
滞納が2回を超えると状況が変わります。もちろん、滞納について謝罪し返済予定を伝えることで了承してくれる債権者もいるでしょうが多くはありません。
個人再生手続きで返済してもらう金額が大きく減額され損失を受けている状態で、さらなる滞納に対しては厳しく対応してくるでしょう。
債権者の対応としては、再生計画取消し申立や訴訟になります。
再生計画取消申立
個人再手続きで返済計画を裁判所に提出し、認められれば返済計画に従って返済を再開することになります。
法律は、民事再生法 第189条でいくつかの再生計画取消し事由を示しています。
そして、取消し事由の中に
「再生債務者等が再生計画の履行を怠ったこと。」という項目があります。
”履行を怠ったこと”とは滞納のことを意味します。滞納の回数は示されていないので、債権者は1回の滞納で再生計画取消しの申立をすることも可能です。(もっとも、たまたま失念して返済し忘れることもあるので、1回の滞納で申立がなされることはあまりありません。)
しかし、2回の滞納、連絡もない、という状況であれば、申立をされる可能性が高くなります。
再生計画取消しの申立は、全ての債権者ができるわけではありません。再生計画への影響が考慮され、総債権額の10%を超える債権を持っている債権者に限定されています。
再生計画取消しの効果
再生計画取消し申立が裁判所に認められれば、個人再生手続きが無かったことになります。いろいろな書類、資料を提出し、費用もかけ、裁判所にも行ってやっと許可してもらったことが無駄に終わってしまいます。
一旦は減額された借金は元に戻り、利息、遅延損害金も発生します。
分割返済を滞納している状態で借金が元に戻ってしまうと、残された手段は自己破産しかないでしょう。
※取消し決定の際、裁判官が職権で破産手続きを開始することもあります。
個人再生での救済策
個人再生では、経済状態が悪化し返済計画通りの返済ができなくなりそうな場合に備えて救済策が設けられています。
破綻する前に積極的に利用することを検討しましょう。
再生計画の変更
民事再生法第234条により再生計画の変更が認められています。
「小規模個人再生においては、再生計画認可の決定があった後やむを得ない事由で再生計画を遂行することが著しく困難となったときは、申立てにより、再生計画で定められた債務の期限を延長することができる。この場合、再生計画で定められた債務の最終の期限から2年を超えない範囲で定めなければならない。」と規定しています。
返済総額自体は減額されませんが、返済期間を延長することで毎月の返済額を減額することできます。
ハードシップ免責
残額の返済を免除することをハードシップ免責と言います。
認められば返済から解放され、債務者にとっては究極の救済策ですが、適用される要件は厳しく多く活用されている救済策とは言えません。
再生債務者がその責めに帰することができない事由により再生計画を遂行することが極めて困難な状態であって以下の要件が規定されています。
- 各再生債権に対してその四分の三以上の額の弁済を終えていること。
- 免責の決定をすることが再生債権者の一般の利益に反するものでないこと。
- 再生計画の変更をすることが極めて困難であること。
最後に
任意整理や個人再生では、最初の見極めが重要です。
あまい計画に基づいて行った債務整理は破綻の可能性が大きくなります。
長い返済期間中には予想できないイロイロな事が起こり得ます。厳しいが返済できるだろうと行った任意整理は、予想外の出費や収入減ですぐに破綻してしまいます。
個人再生では大幅に借金は減額されますが、短くても3年間返済を続けなくてはいけません。余裕がなければ予想外の出来事で破綻してしまいます。
任意整理での返済が厳しいと感じれば個人再生に、
同じように個人再生での返済が厳しいと感じれば自己破産を選択する検討も必要です。