過剰請求

令和4年6月3日更新
この投稿欄を作成した時点では、学生支援機構側が最高裁まで争うか分かりませんでしたが、最新情報によると上訴を断念したとのことです。
これで原告保証人への返還が確定しました。

更に、もう一つ。
この投稿をしたとき私は、

「ただし、過去、今回のケースのように「保証人」でありながら全額返済した方がいる場合、機構が自発的に当該保証人に半額を返還するようなことはないでしょう(多分?)。過去に「保証人」として返済した方は、自分も半額返還されるケースに該当するか専門家に相談されるのも良いでしょう。」

と書きましたが、機構側は払い過ぎている全ての保証人に対して自主的に返還することを決定したそうです。
学生支援を名乗っている組織としての矜持を見せてくれましたね(まぁ、もともと全額請求すること自体がおかしいですが・・)
疑って申し訳ありませんでした。

※機構側による自主返済の対象は、データが残っている2017年4月以降に返済を終えた保証人や返済中の保証人だそうです。
それ以前に保証人として返済している方は自主返済の対象外になるので、自ら返済した書類、記録等を示して請求する必要があります。

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令和4年5月19日に札幌高裁で一つの事件に対する判決言い渡しがありました。
奨学金を受けていた方が返済不能となり、奨学金支給元である学生支援機構が保証人に全額返済を求めた件(保証人は機構の請求通り返済していた)についての裁判でした。

デフレ不況で奨学金返済に苦しむ方が大勢います。
残念ながら返済不能になってしまうと、機構側は「保証人」「連帯保証人」に肩代わり返済を求めます。
保証人になっている以上、肩代わり返済義務は生じますが、同じ保証人であっても「連帯」が付く保証人と付かない保証人とでは返済義務の範囲が異なります。
機構が保証人に全額返済請求した今回の事件を解説します。

奨学金の保証制度

奨学金には返済不要な給付型と返済が必要な貸与型があります。
給付型を拡充しようとする動きもありますが、多くの学生は貸与型で奨学金を受けています。
貸与型で給付を受ける場合、将来発生する返済に対して保証人を求められます。
保証人として、機関保証と人的保証のどちらかを選択することができます。
機関保証とは、機構が指定する保証機関に連帯保証してもらう制度です。
人ではなく機関が保証人となるので、仮に、将来返済不能になったとしても個人に迷惑をかけるようなことにはなりません。
親族や知人に保証人になってもらうことで、「将来、保証人になってくれた人に迷惑をかけるかも」というリスクを回避することができます。
選択として機関保証が良いと思いますが、機関保証にすると保証機関に結構な額の保証料を支払うことになります。

そこで、保証料がいらない人的保証を選択される方も多くおられます。
人的保証を選択した場合、「連帯保証人」として1人、「保証人」として1人、計2人の人的保証が必要になります。
原則として、連帯保証人は父母またはこれに代わる人がなり、保証人は4親等以内の親族等がなります。

連帯保証人と保証人は違います

連帯保証人という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。
そして、連帯保証人になったら債務者が返済できなくなったら債務者に代わって全額返済しなければいけないと理解されています。
この理解は正しく、連帯保証人=債務者と考えて良いです。
連帯保証人になる事は、自分が借りたと同じになります。

問題は、多くの方が保証人=連帯保証人と思っておられることです。
しかし、保証人には連帯が付く保証人である「連帯保証人」と付かない単なる保証人「保証人」があり、両者には法的責任範囲に違いがあります。

「連帯保証人」は、先述のように債務者と全く同じ責任を負います。
債務者が返済不能になり債権者から返済を求められると全額返済しなければいけません。
連帯保証人や保証人が他に何人いようが、1人の連帯保証人が返済請求されたら全額返済義務があり、「債務者や他の連帯保証人や保証人に請求して下さい」と言うことはできません。

対して、「保証人」の責任範囲は異なります。
「保証人」には「連帯保証人」には認められない権利として以下の3つがあります。

  1. 催告の抗弁
  2. 検索の抗弁
  3. 分別の利益

難しい言葉ですが簡単に言いますと、
「催告の抗弁」は、いきなり「保証人」である私に請求せずに債務者に請求して下さいと言える権利です。
「検索の抗弁」は、債務者にはまだ財産があるので、まず、そこから回収して下さいと言える権利です。
ただし、上記2つの権利に関しては、最終的に債務者に返済能力が無くなれば「保証人」として返済が求められます。

決定的に「連帯保証人」と異なるのが「分別の利益」です。
そして、今回の札幌高裁で問題になったのが、この「分別の利益」です。
分別とは、保証人の頭数で分けることを意味し、何を分けるかと言うと返済額です。
そして、「保証人」の返済する額は、返済額を「連帯保証人」と「保証人」の頭数で割った額とされています。

これを奨学金の保証人について考えると以下のようになります。
奨学金の保証人は、「連帯保証人」として1人、「保証人」として1人の計2人がいわゆる保証人になります。
奨学金の返済が滞納され保証人が返済する場合、「連帯保証人」の返済義務は全額です。滞納した奨学金受給者と同じです。
しかし、「保証人」には「分別の利益」が認められます。
この場合、保証人の頭数は「連帯保証人」1人と「保証人」1人の計2人。
例えば、返済滞納額が200万円であったら、200万円を保証人の頭数2で割った100万円が「保証人」の返済義務になります。
「連帯保証人」であれば200万円全額返済しなければいけませんが、「保証人」は半額の100万円を返済すれば良いとなります。

札幌高裁判決

今回の件では、奨学金受給者が返済を滞納したことにより、機構は「保証人」には「分別の利益」により半額しか返済義務がないにも関わらず全額返済を求めました。
「保証人」と「連帯保証人」の違い、ましてや「分別の利益」について一般の方が知っていることはあまりないでしょう。
機構から請求されれば、それが適切な請求行為であると理解するでしょうから、誠実な保証人であれば言われるがまま支払義務のない部分まで支払ってしまうのも無理ありません。
むしろ、機構はそれを期待したのでしょうが、、、

第一審は札幌地裁で行われ、「分別の利益」を認めて支払い義務のない分の金額を返還するように命じました。
控訴審である札幌高裁は、支払い義務のない分の金額の返還に加えて受領してから返還するまでの利息も支払うように命じました。
機構は「保証人」には半額しか返済義務のないことを知って全額請求しているので、余分に受領した部分は「不当利得」であると裁判所は判断しました。

まとめ

学生を支援するための機構が、その学生を応援しようと保証人になった人に対して裁判所に「不当」と判断されるような行為をしていたことはとても残念です。
適切な判決を出していただいた思いますが、判決文の中で注意すべき点があります。
それは、判決で「機構側が分別の利益について説明する法的義務を負っていたとは言えない」と言っているところです。

この判決に従うと、機構が今後も「保証人」に返済請求するとき「分別の利益」を説明する必要はないということなりますが、こういう判決が出ている以上、今後は「保証人」に全額返済を求めることはないでしょう。

ただし、過去、今回のケースのように「保証人」でありながら全額返済した方がいる場合、機構が自発的に当該保証人に半額を返還するようなことはないでしょう(多分?)。
過去に「保証人」として返済した方は、自分も半額返還されるケースに該当するか専門家に相談されるのも良いでしょう。