借金で家が差押え、競売される不安。債務整理で家がどうなるか司法書士が解説します。借金問題は福岡の大濠公園前司法書士債務相談室にお任せ下さい。
債務整理をすると持ち家は差押えられて取られてしまうの?
妻、親と共有名義だけど、どうなるの?
ご家族と住む家は生活の基盤であり、債務整理を考えている方にとっては家がどうなるかは最大の関心事です。
債務整理には「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3つ方法がありますが、家の取扱いには各手続で異なります。
また、住宅ローンがあるか、ないか、名義は単独か共有かでも違ってきます。
家がどうなるか? どう処理されるか? 残す方法はあるか? 司法書士が分かりやすく解説いたします。
ポイント1 債務整理と持ち家の関係
家がとられる・・とは、家が差押えられ、競売にかけられる、又は任意売却により家を手放すことを意味します。
各種債務整理手続きには、それぞれに特徴があり、その特徴をしっかり理解して自分の状況と照らし合わせてベストな方法を選択することが重要です。
任意整理
任意整理は裁判所が一切関与しない債務整理手続きなので、差押えを制限することができません。
任意整理をすると家を差押えられる可能性があります。
ただし、返済を滞納しているだけでは家を差押えることはできません。差押えるには以下のような前提条件を満たしていることが必要です。
- 住宅ローン債権者が担保として家に抵当権を設定している。
- 貸金業者が貸金の担保として家に根・抵当権を設定している(不動産担保ローン)。
- 債権者が裁判で仮執行宣言付判決を得ている、又は判決が確定している。
- 債権者が仮執行宣言付支払督促をしている。
上記前提条件を満たしている債権者を相手に任意整理手続きをとると、任意整理に応じることなく家を差押えられる可能性があります。
結果、差押えから競売にかけられ、落札されれば家を失うことになります。
まずは、返済滞納を放置しておくのではなく、返済計画の見直しが可能な場合もあるので、まずは債権者と相談することを検討して下さい。
任意整理を行う場合、家の差押えを回避するには上記の差押えができる債権者を任意整理の対象から外すことになります。
「個人再生」「自己破産」では全債権者を対象にしなければいけませんが、任意整理は整理対象を選択することができます。
上記以外の債権を対象として任意整理を行い毎月の返済額を減らし、その分を上記債権者の返済に回して家の保持を目指します。
個人再生
個人再生手続では整理対象を選択できません。全ての借金、ローンが対象になります。
住宅ローンも整理対象になり、個人再生手続きをすれば、ローン債権者は何もしなければ債権額が5分の1に減ってしまうので、家に設定している抵当権を実行して、差押え、競売により資金回収にあたることになります。
個人再生手続の開始が決定されると、債権者は勝手に自分の債権を差押え等の強制執行で回収することができなくなるのですが、家に設定されている根・抵当権は「別除権」として個人再生とは関係なく実行、競売により資金を回収することが認められています。
ローン返済中の家の保持
通常だと家を差押えられてしまうことになりますが、個人再生にはローン返済中の家を保持したまま手続きをすすめることができる条項があります。
住宅資金特別条項と言います。
裁判所の許可を得て、住宅ローン以外の債務を個人再生で減額し、減額された分を住宅ローンの返済に回すことで家を保持していく方法です。
個人再生では、裁判所の関与により大きく借金額を減らすことができます。基本的には、100万円~500万円未満は100万円に、500万円~1,500万円未満は5分の1に減額されます。
住宅ローンは債務整理対象外になり軽減されないので、従来通りに返済していくことになります。
ただし、この住宅資金特別条項を使うには以下のような適用要件があるので注意下さい。
- 本人所有の家で居住用のための資金であること。
居住用のための資金とは、住宅購入資金、建設資金、それら資金の借換え、リフォーム資金が含まれます。
住宅ローンを借換えした場合も適用されます。ただし、買換えや住替えローンで、従前のローン残高に加算して新たなローンを組んでいる場合は、適用されないおそれがあります。
「住宅」とありますが、土地や住宅の用に供された私道持分、駐車場にも適用されます。
居住用であることが条件なので、本人所有でも他人に賃貸していれば適用外です(定期借家契約であれば適用される可能性あり)。また、生活としての居住が必要で、別荘や投資用物件は認められません。ただし、本人が単身赴任で住んでいなくても、家族が住んでいれば適用される場合があります。
居住用としての本人名義の家が2っ以上ある場合、本拠地として居住している家のみが対象となります。
店舗共用住宅の場合、建物の総床面積の2分の1以上が居住用スペースであれば適用されます。
二世帯住宅の場合、建物の総床面積の2分の1以上が本人世帯の居住用スペースであれば適用されます。
共有名義になっている場合は、その内容により扱いが異なります。
連帯債務型や連帯保証人型は、家に1っの抵当権が設定されるので適用されます。
ペアローン型は、夫、妻それぞれの抵当権が家に設定されており、夫のみが個人再生の申立をした場合、妻の抵当権が家に設定されている申立人の住宅ローン以外債権として扱われ適用されないおそれがあります。夫と妻が共に個人再生手続をすれば問題ありません。 - 家に住宅ローンを担保する銀行または保証会社の抵当権のみが設定されている。
住宅資金以外の貸金を担保する(根)抵当権(例えば、事業資金借入のための根抵当権、不動産担保ローン等)が設定されていたら適用できません。
他に不動産があり、その不動産に住宅ローンの共同抵当権が設定されている場合、住宅ローン以外の(根)抵当権が後順位に設定されていたら適用できません。2っ以上の抵当権が設定されていても、当該家の住宅ローンの担保であれば適用されます。
マンションの管理費や修繕積立金を滞納している場合は注意が必要です。管理費等には先取特権といって、個人再生の過程でも優先的に取立てできる権利が認められています。つまり、住宅ローン債権以外の担保があることになるので、そのままでは適用外となります。偏頗弁済にならないように弁済して滞納を解消する等の処置が必要です。
住宅資金特別条項を使った住宅ローンの返済に困ったら?
基本的には他の返済が軽減され、住宅ローンは従来通りに返済していくことになりますが、既に住宅ローンを滞納していたり、従来通りの返済が厳しい場合は、救済策があります。
- ローン滞納額の分割返済
当初の契約通りのローン返済をしながら、滞納額を3年(最長5年)にかけて分割で支払う。 - 返済期間の延長
期間を延長してもらうことで月々の返済額が少なくなりますが、延長した分、利息が増えることになります。
延長期間は当初の最終支払日から10年以内で,かつ,最終支払日の年齢が70歳を超えないことが条件とされています。 - 元本の支払い猶予
期間延長してもローン返済が厳しい場合、一定期間、元本部分の支払いを猶予してもらいます。ただし、期間経過後は元本及び利息、遅延損害金を支払うことになるので慎重な検討が必要です。 - ローン債権者との協議
上記以外の内容でも、ローン債権者との協議で同意が得られれば、同意内容の返済ができます。
自己破産
自己破産は債権者からの借金をゼロにする手続なので、債務者は自己破産しても保有することが認められている財産(自由財産)以外は換金して返済にあてることが求められます。
持家は自由財産に該当しないので、換価処分(競売、任意売却)の対象になります。
家に価値が付かず換価処分されない場合(競売で落札されない、任意売却で買い手が見つからない)、換価処分は中止されますが、基本的に自己破産で持家を保持することはできません。
ローンがない、根・抵当権が設定されていない家は、管財人により換価処分され返済に充てられることになります。
ローン返済中の家は抵当権が付いているので、債権者が抵当権に基づき差押え、競売、又は管財人が債権者と話し合って任意売却することになります。
ポイント2 住宅ローンと債務整理
住宅ローンがある家とない家では、債務整理手続きにおいて取扱いが異なります。
また、住宅ローンがあってもオーバーローン状態かアンダーローン状態かで扱いも変わります。
オーバーローンとは、ローン残高が家の現在価値を超えている状況、つまり、家を換金してもローンが残る状態のことを言い、アンダーローンはその逆で家を換金してローンを完済しても余りが出る状態のことを言います。
住宅ローンがない家
ローンがない不動産は優良な財産なので、滞納により債権者の差押えのターゲットになります。
まれではありますが、業者によっては弁護士や司法書士が債務整理の受任通知をして債務整理の交渉をしても、訴えを提起したり仮執行宣言付判決をとって不動産を差押えようとします。
債務整理手続き前や任意整理手続きにおいては、家を差押えることは可能です。
住宅ローン等の抵当権が付いていない持家は、抵当権者のような優先権のある者がいないので差押えられるおそれは十分あります。
返済を滞納すれば、早い時期に差押えの前段階である訴訟や支払督促がなされるおそれがあります。
ただし、債務者が多数から借入をしている場合、一番に家を差押えをしたからといってその業者に優先権が認められるわけではありません。
通常、不動産が競売等で換価された場合、「債権者平等の原則」により各債権者の債権額に応じて配分されることになります。
1社が経費をかけて差押え、競売しても、自社に有利に働くことはないので、それを承知でやるかどうかは各社の判断となります。
かなりの換価価値があれば差押え、競売により換価処分されるでしょうが、価値がなければ経費をかけてまでもと考える業者もいます。つまり、絶対に差押える・・とは言い切れません。
※業者によっては滞納により機械的に動産を含めて差押えの手続を行うところもあり、家にはあまり価値がないから差押えられないと考えることは禁物です。
根・抵当権との比較
差押えには「債権者平等の原則」が働きますが、根・抵当権には働きません。
根・抵当権は差押えと異なり、1番に登記をしていればその者に最優先権が認められるので、根・抵当権にもとづき差押えられる可能性が高いです。
家に根・抵当権が設定されていたら、住宅資金特別条項を利用しないと差押え・強制競売により家を失うことになります。
「個人再生」「自己破産」においては、手続開始が「決定」されると家を差押えることはできません。また、既に差押えられていたら差押え手続きは中止、失効します。
ただし、「個人再生」では、家の現在価値が返済額の最低基準になるので、価値次第では大幅減額のメリットを得られなくなります。また、「自己破産」では、管財人によって返済や手続費用にあてるため換価処分されることになります。
オーバーローン状態の家
家の現在価値より抵当権で担保されている住宅ローン残高の方が大きい状態をオーバーローンと言います。
この状態の家の取扱いは債務整理の方法によって異なります。
任意整理
任意整理では、金融業者がこの状態の家を差押えられることはあまりありません。
金融会社が家を差押えて競売にかけ換価しても、第一優先順位の抵当権者に落札金全額もっていかれることになるからです。
注意すべきは住宅ローンの抵当権者です。住宅ローン債権を任意整理の対象にすると、抵当権を実行され競売されるおそれがあるので対象から外します。これはアンダーローンである場合も同様です。
家に抵当権が設定されている以上、債務整理着手以前に返済を滞納することで抵当権を実行(差押え、競売)されるおそれがあるので注意下さい。
返済が困難になってきた場合は、早急に住宅ローン会社に返済計画見直しの相談をすることをご検討下さい。
個人再生
個人再生をすれば、住宅ローンがない場合で述べたように手続開始決定で差押えはできなくなります。
住宅の現在価値が個人再生後の返済金決定に大きく影響しますが、オーバーローン状態であれば家の現在価値は0なので、手続き後の返済額に影響しません。
個人再生手続で住宅資金特別条項が適用されなければ、住宅ローン会社は抵当権を実行し競売にかけることになります。
オーバーローン状態なので貸金全額の回収はできませんが、抵当権を実行しないと債権額は個人再生手続で大幅に減額されてしまうからです。
個人再生で家を保有し続けるには、住宅資金特別条項を適用するしかありません。
自己破産
自己破産で家がオーバーローンの状態にあるとき、管財人のいない同時廃止になる可能性があります。管財人が就いて家を処分しても全てローン債権者が取得して他の債権者に返済することができないからです。
この場合、ローン債権者が抵当権を実行して競売にかけ、資金を回収する流れになります。
別の選択として、ローン債権者による競売申立前に持ち主がローン債権者の承諾を得て任意売却することも考えられます。通常、競売より任意売却の方が高く値が付く傾向にあります。
高い価格で売れてもどうぜ全額ローン債権者に取られるだけ・・と思われる方もいらっしゃると思いますが、場合によっては任意売却によって破産者がメリットを得ることがあります。
任意売却で家を売りに出す場合、前もって持ち主は引っ越し(または、契約時に退去引渡し)することになりますが、その引っ越し費用をローン債権者や仲介業者が負担してくれる場合があります。
必ず払ってくれる訳ではありませんし、また、競売であれば手続きが終わって落札者が支払うまでは住み続けられるので、その間の賃料が浮きます。どちらが良いか状況によって選択することになります。
アンダーローン状態の家
家の現在価値より抵当権で担保されている住宅ローン残高の方が少ない状態をオーバーローンと言います。
任意整理
債務整理手続前や任意整理手続きにおいては差押えられるおそれがあります。
住宅ローンを整理対象から外すことでローン会社からの差押えは防げますが、以外の債権者の対応が問題になります。
例えば、家の現在価値が2,000万円、住宅ローン残高が1,000万円で、ローン会社が家に1番抵当権を設定している場合、他の債権者である金融会社が差押えをしてくる可能性があります。
差押え、競売をした場合、金融会社による競売であっても1番抵当権者であるローン会社が優先して落札金から自己の債権を回収できます。
アンダーローン状態であれば、1番抵当権者が全額回収しても余るので、金融会社はその残額目的で差押えをすることがあります。
任意整理手続の交渉に応じてくれる業者であれば、交渉中にいきなり差押えをするようなことはないと思われますが、アンダーローン状態の家は優良な資産であるので、いろいろなケースで差押えのターゲットになりやすいです。
個人再生
個人再生手続きで、住宅資金特別条項を使わない限り抵当権が実行されると思ってよいでしょう。
住宅資金特別条項を使って家を保持したとしても、アンダーローンの家の財産価値は高額になり、その額が手続後の最低返済額になるので注意が必要です。
自己破産
自己破産手続きで、家を保持する事はできません。管財人によって換価処分(任意売却)されるか抵当権が実行され競売にかけられることになります。
ポイント3 共有名義の家の扱い
不動産をお一人で所有している方が債務整理手続をする場合、手続を開始するにあたって問題はありませんが、共同所有でどちらか一方だけが債務整理をする場合は、いくつか注意すべき点があります。
共有名義での持分の処分方法
強制執行による差押え・競売、破産管財人による換価処分による持分の処分方法として以下が考えられます。
- 債務者の持分が競売される。
- 他方の共有者が持分を買取る。競売で落札することも可能です。
- 他方の共有者持分も合わせて任意売却する。
①のように債務者の持分が第三者に落札されたら、一方の共有者は知らない人と家を共有することになります。一方の共有者が家に住んでいれば、新たな共有者は出て行けと要求することはできませんが、持分に応じて家賃を払えと要求することができます。
但し、一般の方が知らない人と共有になり、住むこともできない家を買うことはあまり考えられません。通常、買うとしたら業者になります。
業者は任意売却や競売で落札して共有者となります。この場合、共有者のいる家を買う人はいないから、かなり安い価格で取得することができます。
次に、業者は共有者に対して「共有物分割請求」をします。これは、共有している財産を持分通りに分けて下さいという請求です。この請求権は民法で認められている共有者の権利です。
この場合、家を持分通りに切り分けることはできないので方法は2つ。一方が他方の持分を買い取るか、家を売って売却代金を持分に応じて分けるかになります。話し合いがまとまらなければ訴訟を起こします。
共有者による分割請求は正当な権利なので、裁判になれば先ほどの2つのうちいずれかで和解になるケースが多いです。和解せずに判決までいくと、売って売却額を持分に応じて分けることなる可能性大です。
いずれにせよ分割が決まることで業者に利益が発生します。業者は安く持分を取得し、通常価格で売ることで利益を得ることになります。
もちろん、このような例は多くはありません。業者にとっても非常に面倒ですし、相手が応じなければ訴訟になるので時間も費用もかかってしまうからです。
➁は、他の共有者が購入(任意売却)する方法です。この場合、購入する持ち分には抵当権が付いているので、購入時に抵当権を抹消できるように事前に抵当権者と交渉することが大切です。
他の共有者が保持し続けるには、②のように任意売却で債務者の持分を買い取ることが現実的です。
ただし、自己破産の場合は注意が必要です。破産をみこして予め安く、または無償で共有者に譲渡するような行為はダメです。後日、破産管財人により否認されたり、最悪、詐欺破産罪にとわれるおそれもあります。
また、適正価格で売ったとしても、その代金の使い方次第では、偏頗弁済や財産隠しを疑われてしまうので、破産申立をするときは、管財人や裁判所と相談しながら行うのが良いでしょう。
持分が競売されたが、最終的に買い手が現れなかった場合もあります。競売が不発に終われば特別売却という手続きに移行し、更に価格を引き下げて売り出されますが(3回まで繰り返します)、それでも売れない場合は、原則、競売手続きは取消されます。
共有名義と債務整理
ご夫婦がローンを組んで共同で家を購入する場合、3っの方法が考えられます。
- 連帯債務型
- 連帯保証型
- ペアローン型
①は夫婦が共に連帯債務者となり、互いの収入の合計額をもとに住宅ローンを組むケースです。通常、収入の割合いの持分で共有し、家には住宅ローンを担保する1っの抵当権が家全部に設定されます。
よって、どちらかの滞納により抵当権に基づき差押えられる場合、持分のみではなく、家全部が差押えられることになります。
➁は一方が債務者、他方が連帯保証人のケースです。この場合、債務者になった方が名義人となり共有状態にはならないので、共有問題は生じません。
③は共有者が別々に借り入れをし、自分の持分に抵当権を設定するケースです。
どちらかが債務整理する場合、差押え、換価処分の対象は持分になります。