裁判所

借金に関して裁判所から書類が送られてくる場合があります。
封筒に「〇〇裁判所」と印刷されているのを見て、びっくりされると思います。

裁判所からの書類を受け取ったら
どう対応するか?
ほっておく?
何かしないと、とんでもないことに?

全ては債権者が何らかのアクションを起こし、それに対応して裁判所が借主である債務者に書類を送付しています。
無視しても罪になることはありませんが、大きなデメリットを被ることもあります。

裁判所から何らかの書類が送られてきた場合の対応を司法書士が分かりやすく解説します。

裁判所から送付される書類

借金に関して裁判所から送られてくる書類として以下のような書類が考えられます。

  • 支払督促正本
  • 仮執行宣言付支払督促正本
  • 訴状
  • 債権差押命令正本(給料差押えの場合)

これらの書類は、普通郵便やハガキで送られてくることはありません。
「特別送達」と記載された裁判所の名前入りの封書で送付されます。
郵便配達員から受け取るとき、「郵便送達報告書」に受け取った人の署名又は押印をするよう求められます。

このように裁判所からの郵便が、郵便受けに投函されるようなハガキや普通郵便で送付されることはないので、裁判所を装った郵便物には注意下さい。

支払督促

支払督促は、「債務者の住所所在地」を管轄する簡易裁判所(×地方裁判所)から送られてきます。
※自分の居住地域から遠方にある裁判所名で送られてくる支払督促とする書類は、裁判所をかたった架空請求のおそれがあります。

債権者が簡易裁判所に申立ることで、裁判所から支払督促書面が送付されます。

送られてきた支払督促書面には、「債務者は、請求の趣旨記載の金額を債権者に支払え」と記載されています。
請求の趣旨欄には、債務者に支払って欲しい金額(遅延損害金や申立金も含まれます)が記載されています。

裁判所からの書面に「支払え」と強い口調で書かれているので、裁判所からの命令のように感じて驚かれると思いますが、債権者はその驚きによって債務者が支払ってくれることを期待しています。

しかし、督促は裁判所が債権者の申立だけに基づいて行っており、いわば形式的に行っている督促なので判決のような効力はありません。
債権者の申立内容が正しいかどうかの審査もされません。

そこで裁判所は「・・・・支払え。」との文章の後に「債務者がこの支払督促の送達の日から二週間以内に督促異議を申立てないときは、債権者の申立によって仮執行の宣言をする。」と記載し、不服のある債務者が反論できる機会を与えています。

支払督促異議の申立

身に覚えのない請求であったり、債権者の請求内容が間違っているような場合は、受け取ってから2週間以内に裁判所に異議を申立ることができます。
身に覚えのない請求なのに、なぜ、わざわざ裁判所に申立しなくていけないのか・・と思われるかもしれませんが、無視すると相手の言い分が真実のように扱われてしまうので、面倒ですが対抗するには異議の申立が必要になります。

異議を申立るには、通常、支払督促に「支払督促異議申立書」も同封されていますので、それに必要事項を記入して裁判所に返送します。
支払督促異議申立書の「その他」の欄に、既に時効が成立しているので時効を援用する旨や、全く借りた覚えがない旨等の異議の内容を記載します。

異議申立をすると、支払督促手続きは終了しますが、債権者を原告、債務者を被告とする訴訟に移行することになります。
内容に異議があるので裁判で争う・・ということになり、裁判所から審判の期日が指定され呼出状が送られてきます。
その後、異議の内容を記載した答弁書を提出するか、期日に裁判所に行って主張することになります。

答弁書も提出せず無断で欠席すると、相手の言い分が裁判所によって認められてしまいますので注意下さい。

※相手方の請求に内容が正しければ、督促異議をして裁判に移行しても敗訴することになります。

支払督促を放置したら?

支払督促を無視してなにも対応しなければどうなるか?
次の2つのパターンが考えられます。

  • 2週間経過後に仮執行宣言付支払督促の手続きがされる。
  • 上記の手続きをせずにそのまま終了する。

支払督促の申立は簡単にできます。
債権者の中には裁判所の威光を使い、債務者がおどろいて支払う事を期待して支払督促をしてきます。
このような債権者は、次の段階である仮執行宣言付支払督促までやらないことが多いです。
仮執行で差押えまでするには時間も経費もかかってしまうからです。
仮執宣言付支払督促申立ができるときから30日間申立せずに経過すると、支払督促はなかったことになります。

ただし、仮執行宣言付支払督促には時効の更新効果があるので、それ目的で行われることがあります。

仮執行宣言付支払督促

債務者が支払督促を受領後2週間以内に督促異議の申立をしなかったら、債権者は次の段階として仮執行宣言付支払督促の申立ができるようになります。
この申立を行うと、裁判所は債務者に仮執行宣言付支払督促の書類を特別送達で送付します。

これが送られてくるとどうなるか?

「執行」という言葉にあるように、債権者による実力行使が現実的になります。
債権者よる債務者の財産「差押え」が可能になります。
「仮」という言葉に惑わされないで下さい。「仮」と付いていますが、裁判所を使って債務者の給料、預貯金等の財産を差押えることができます。

仮執行宣言付支払督促が送付されてきたときの対応として、不当であれば受領後2週間以内に支払督促のときと同様に異議申立ができます。
異議申立で裁判に移行するのですが、異議申立をしても差押えの手続きを停止させることはできません。
停止させるには、異議により移行して争う裁判とは別に「請求異議の訴え」を起こさなければいけなくなります。

※仮執行宣言付支払督促が送られてきたら、必ず給料や銀行口座が差押えられるかというとそうでもありません。
目的は差押えではなく、時効の更新(今まで経過していた時効期間がリセットされてゼロから再スタートになる。)であったりします。
また、給料を差押えるには勤務先を、銀行口座を差押えるには銀行名、支店名を裁判所に通知する必要があるので、それらを知らなければ差押えできません。
給与(差押えできるのは4分の1だけ)や滞納状態にある人の残高がいくらか分からない銀行口座を差押えるために、時間と経費をかけて勤務先や銀行を調査することは債権者にとって費用対効果的にハードルが高いと言えるのでしょう。

訴状

裁判所からの訴状通知は、正式に債権者から返還訴訟が提起されたことを意味します。
支払督促より高いレベルになりますが、手続きが簡単な支払督促をせずにいきなり訴えてくる債権者もいます。
それは、支払督促は「債務者」の居住地域を管轄する簡易裁判所に申立てしなければいけませんが、訴訟は「債権者」である消費者金融業者自身の所在地管轄の裁判所に提起することができるからです。
多くの債務者に対してそれぞれの居住地管轄裁判所に申立るより、自社管轄裁判所に一括で申立た方が効率が良いという面があるようです。

訴状が送られてきたら、必ず相手の言い分を確認して下さい。
言い分は、訴状に記載されている「請求の趣旨」と「請求の原因」を見ることで分かります。
請求の趣旨とは、債権者が債務者に求めている内容です。貸金返還訴訟であれば、「金〇円支払え」と書かれています。
請求の原因は、お金を借りたときの金額、利息、返済期日や滞納している事実等が書かれています。

この内容に間違いないか確認して下さい。

裁判で争う

借りた覚えがない、既に返済した、金額が違う、時効が完成している等々、内容が違うのであれば必ず対応しましょう。
勝手にウソの裁判を起こしている相手になぜ時間を割いて対応しないといけないのか?
と思われるかもしれませんが、訴えられたら戦わざるを得ません。
裁判所は、どちらが正しいのか裁判で両者の意見を聴かないと判断できません。
対応としては、「答弁書を提出する」「裁判に出て意見を言う」の2つがあります。
答弁書を提出すれば、裁判に出る必要はありません。答弁書の内容を裁判に出て陳述したもの(擬制陳述)として扱われます。
答弁書も出さず裁判も無視すると、相手の訴えた内容を認めた(擬制自白)と扱われ相手の主張が認められてしまうので、しっかり対応しましょう。

裁判で和解・調停

相手の訴えている内容が正しく、時効も完成していないのであれば、反論の余地もなく裁判は相手側の勝訴に終わります。
であれば、そのまま無視しておくことも選択肢になりますが、この場合でも裁判に出るメリットがあります。
それは、「和解」「調停」」狙いです。
裁判で借金の減額や分割払いでの返済を申出ることができます。裁判所も債権者に応じてはと促してくれたりもします。
債権者にとっても和解により時効の更新もできるので、返済する意思を示せば応じてくれるケースも珍しくありません。

裁判を無視すれば、相手の言い分通りになってしまいますが、裁判に出れば借金の減額、返済条件の緩和等ができる可能性があるので対応することも検討して下さい。

債権差押命令正本

この書類は債権者が究極の債権回収手続きに入ったことを意味します。
債務者の給料(上限4分の1)や銀行口座を裁判所が公権力と使って差押えます・・という通知です。
この通知が債務者に通知されたということは、同じ通知が既に勤務先の会社にも通知されていると認識下さい。

差押えられる範囲ですが、「差押債権者の債権及び執行費用の額を限度として、差押えの後に受けるべき給付にも及ぶ」と民事執行法で規定されています。
つまり、債権額と執行費用分になるまで給料が「毎月」差押えられることになります。

この正本が債務者に送達された日の翌日から4週間経過したら、債権者は直接会社に差押え分の支払請求ができるようになります。

差押えがされた場合でも対応策はあります。ただし、どれも簡単な手続きではないので差押えられる前に対処することが重要です。

差押禁止債権の範囲の変更の申立

差押えられた給料や銀行口座は、受取ることも引き出すこともできなくなります。
これにより、生活に著しく支障がでてしまう、生活できなくなるといった場合、差押え額を減額してもらうように裁判所に申立てすることができます。

利用する主な場面は、年金や生活保護費に関連する差押えです。
これらは生活するために公的に支給される金額であり、差押えが禁止されています。
しかし、銀行口座に入ってしまうと、預金となり差押えられて引き出すことができなくなってしまいます。
そんなときに、これらのお金を差押えの範囲から外すためにこの範囲変更の申立をします。

申立てには、現状(世帯構成、収入、支出、資産、負債等々)を示すいろいろな資料、陳述書の提出が必要で簡単ではありません。

以前は差押えの通知が来たら1週間後には取立できるようになっていて、申立の準備期間が短すぎあまり利用されていませんでした。
そこで、現在は取立時期は通知後4週間に変更され、準備期間が伸びました。
ただし、揃える書類、陳述書の作成は簡単ではないので専門家に依頼したほうが良いでしょう。

この方法は、あくまでも「差押えの額を減らす」というだけの効果でしかありません。借金自体には影響ありません。
根本的な解決を図るには、次で説明する個人再生、自己破産による法的債務整理が必要です。

個人再生・自己破産の申立

個人再生、自己破産手続きには差押え手続きを中止する効力があります。

個人再生:
個人再生申立後、手続き開始が決定した時点で差押え手続きは中止され、最終的に再生計画が認可されると失効します。
申立から開始決定まで時間がかかるので、緊急を要する場合は、申立と同時に強制執行中止命令申立をします。
ただし、裁判所に中止の必要があると認めてもらわなければいけません。

自己破産:
差押えは失効し無かったことになりますが、同時廃止と管財事件で失効となる時期が異なります。
同時廃止では、開始決定により中止され、免責決定で失効されます。
管財事件では、開始決定時に失効されます。
差押えられた金額は、差押え手続が失効しないと受取れないので、同時廃止になると受け取る時期が遅くなります。

個人再生や自己破産手続きを行う裁判所と差押え執行裁判所は異なります。
手続き開始決定や免責決定を受けても、そのことが差押え執行裁判所に自動的に通知され差押えが中止、失効されるようにはなっていません。
債務者自身が執行裁判所に上申書という形で通知する必要があります。

この対応で最大の障害は時間です。
通常、個人再生や自己破産を行う場合、収集書類、提出書類が多く準備するのに数ヶ月必要です。
準備、提出、開始決定を受けるまでに取立が行使され終了してしまうと、その分のお金を取り戻すことはできません。
急いで準備して申立ても間に合わないこともあります。
債務整理するのであれば、債権者が差押えをする前に送ってくる「差押え予告通知書」等を受け取った時点で着手するのがベストです。

差押えの解除

残額を一括返済し債権者に差押手続きを取り下げてもらうことで差押えが解除されます。
しかし、一括返済できるのであれば、差押え通告書送付段階で返済しているでしょうから、この対応は現実的ではありません。

一括返済できないまでも、一部返済等をして債権者に返済の意思を示すことで差押えを取り下げてもらうようお願いすることも考えられます。
ただし、その可能性はかなり低いと考えて下さい。
経費も時間もかけて取立のために差押えという最終段階まで進んでいるので、取下げて再度、確証のない返済を受けるという選択をする債権者は少ないです。

まとめ

債権者が適法にお金を貸し、返済が滞納している場合、訴訟や支払督促、差押えのような行為は債権者に認められた正当な法律行為であり、適切に手続をされると時効が成立していない限りこれを阻止することはできません。

相手の主張が正しければ裁判で敗訴します。支払督促でも異議申立により手続きを遅らせることはできますが、最終的に裁判に移行して審理されれば敗訴することになります。

もちろん無視することもできますが、何ら状況は変わりません。
というより、判決をとられて借金額もそのままで時効期間が10年に延び、この間ずっと返済請求、督促にさらされることになります。

そこで、この債権者の法的手続きをきっかけとして、債務整理手続きに着手することをおススメします。

個人再生、自己破産はもとより、裁判に自ら出向いて返済額を減らしてもらったり、返済期間を延ばしてもらうような内容で裁判所に調停をお願いすることも債務整理のひとつです。
ただし、裁判所での和解、調停した場合、判決と同じように時効が10年に延びます。
支払督促の場合、必ず仮執行宣言付支払督促まで行って時効が10年に延びるとは限りません。
あまりおススメできませんが、10年に延びても構わないと思われる方は、債権者が途中で手続きを放棄することを期待して、あえて支払督促を無視して当初の5年経過による時効完成を待つという選択肢もあります。