特定調停

債務整理方法としては「任意整理」「個人再生」「自己破産」が3本柱になっていますが、もう一つ「特定調停」という方法での債務整理もあります。
先にあげた3つの方法ほどメジャーではありませんが、債権者相手に「裁判」ではなく「調停」という形で債務整理を行います。
「任意整理」「個人再生」「自己破産」は弁護士や司法書士に依頼しないとできないということはありませんが、「任意整理」を個人でやろうとしても、まず債権者である金融機関が対応してくれないでしょう。「個人再生」「自己破産」の申立も自分でやろうと思えばできますが、申立内容、提出書類等が煩雑で種類も多く、逐一裁判所に確認しながらやることになるでしょうから非常に時間がかかってしまいます。
対して、特定調停は申立は自己破産等ほど難しくなく、債権者との話し合いも調停委員がしてくれるので、他の方法に比べて自身でやりやすい債務整理方法といます。
この特定調停について司法書士が解説します。

特定調停とは

十分な法律知識を有しない方でも,裁判所窓口に備え付けの申立書などのひな型を使って,自分で申立てを行い,手続を進めていくことができます。

当事者本人が出頭するのが原則となっており,調停委員が事情を聴き,必要があれば事実の調査を行うなど,簡易な手続が設けられています。
また,申立ての費用も,例えば,個人が申し立てる場合,業者1社につき500円程度の安価で済み,裁判所に来る回数も2回程度であるため,非常に利用しやすい手続であるといえます。調停は,当事者が気兼ねなく話合いを行うため非公開の席で行うことになっており,外部に知られることもありません。(裁判所HPより引用)

特定調停の申立

特定調停の申立ては,債権者の住所,居所,営業所又は事務所の所在地の区域を受け持つ簡易裁判所に行います。複数の債権者に対し申立てをする場合には,一つの簡易裁判所にすべての債権者の住所等がないときでも,いずれかの債権者の住所等の区域を受け持つ簡易裁判所において,すべての事件を関連事件として取り扱うことがあります。

管轄簡易裁判所に行って、特定調停申立書等の書類をもらい必要事項を記入して提出します。財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料及び関係権利者一覧表などの書類の作成も必要になります。
調停受付で特定調停申立てに関する詳しい説明や申立書など提出すべき用紙を交付しているので、分からない点は職員に聞けば教えてくれます。

申立書、必要書類を揃えたら、申立手数料及び手続費用を添えて提出します。
※申立ての内容によっては,書類等の追加提出を求められる場合があります。

調停の手順

特定調停の申立てがあると,裁判所から債権者に申立書(副本)及び申立受理通知等を郵送します。その際,裁判所は申立人との間の金銭消費貸借契約書写しや取引履歴に基づく利息制限法所定の制限利率による引き直し計算書の提出を依頼しています。

通常は,最初に申立人から事情を聴き,その後に相手方と債務額の確定や返済方法を調整します。 最初は、申立人だけ裁判所に来てもらって,調停委員から,生活状況や収入,今後の返済方法などについて聴かれることになります。
次に、債権者にも来てもらい,返済方法などを調整することになります。
調停委員は,債権者から提出してもらった契約書写しや債権額計算書をもとに,申立人との総債務額を確定し,申立人が返済可能な弁済計画案を立てて,申立人と債権者の意見を聴いた上,公正かつ妥当な返済方法の調整を行います。

調整の結果,合意に達した場合は,調停成立(相手方が出頭していないときは合意した内容の特定調停に代わる決定がなされます。)により手続は終了し,その後は合意した内容どおりに返済していくことになります。
双方の折り合いがつかないときは,合意ができないまま特定調停手続は終了します。
以上の手続が終了するまでに,通常,申立てからおおよそ2か月程度の期間がかかり,申立人は2回位裁判所に出向くことになります。(裁判所HPより引用)

特定調停の内容

特定調停で決められる内容は、任意整理とほぼ同じとお考え下さい。
現状の借入額を固定し、以降は利息を発生させないようにし(将来利息の免除)、現状の借入額を原則3年の月額均等払いで返済していくことになります。

特定調停のメリット・デメリット

個人でもできる特定調停にはメリット、デメリット両面があります。
特定調停をご自身でされる場合、以下のメリット・デメリットを参考にして下さい。

メリット

1番は、とにかく費用を安く抑えることができるということです。
申立時に裁判所に申立手数料と手続き費用を収めることになりますが、費用は以下の通りです。(令和3年8月現在)
1.申立手数料(収入印紙):
債権者1社、1人につき500円分の収入印紙。
※1社に対する債務額元本が1,666,666円を超える場合は,追納の必要が生じることがあります。

2.手続費用(切手):
債権者1社、1人につき430円分の切手。
※手続き進行後、追加される場合があります。

例えば、5社に対して特定調停の申立をする場合、
5 x 500 + 5 x 430 = 4, 650円で済みます。

弁護士や司法書士に債務整理を依頼する場合に比べ、圧倒的に安く済むことが最大の利点と言えます。

また、自身でやる債務整理ですが、債権者との交渉は調停委員がやってくれるので、自分でする必要はないというメリットもあります。

デメリット

1番のデメリットは、調停内容が「債務名義」になるということです。
「債務名義」とは、裁判所が発行する強制執行ができる切符とお考え下さい。
債務名義である調停の内容に違反する行為をすると、つまり滞納すると、すぐに差押えることができることになります。

滞納すれば当たり前では?
とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、差押えは簡単には出来ません。
裁判所に「お金を貸したのに相手は返済してくれません、相手の資産を差押えて下さい」とお願いしても裁判所はすぐには差押えてくれません。

差押えをお願いする前に、貸したお金を返して下さいとする訴えを提起しなければいけません。
この裁判の中で、裁判所は、
お金を返す約束で貸したか?
お金を渡したか?
返済期日は到来しているか?
相手は返済していないか?
を確認した上で、全てが認められれば「お金を返しなさい」と判決を出します。
そして、この判決が「債務名義」となり相手の資産(給料等)を差押えることできます。※判決以外でも仮執行宣言付支払督促による差押えも可能です。

このように差押えるには事前準備が必要ですが、特定調停で調停が成立すると、調停は判決と同じ効力(債務名義)を持つので、調停後に滞納してしまうと、相手からいきなり給料を差押えられるというデメリットがあります。

対して、任意整理において特定調停と同じような内容で将来利息の免除、3年返済で合意しても、合意書は「債務名義」にはなりません。
任意整理合意後に滞納したとしても、それをもってすぐに給料が差押えられるということはありません。

他のデメリットとしては、裁判所が行う手続きなので、手続きはすべて平日に行われます。仕事をしていれば休まなければいけなくなるので、調整の手間がかかります。

また、手続きを弁護士、司法書士に依頼すれば、すぐに受任通知が各債権者に送付され支払の督促は止まりますが、自身でする場合、裁判所に行き、申立の書類、資料を準備して申立を完了するまでは督促が続くことになります。

まとめ

返済に窮している状況では、債務整理と言えども出来る限り費用を抑えたいと思うのは当然です。
弁護士、司法書士に依頼すれば便利ではありますが、数万円、数十万円の費用がかかってしまいます。

それに比べて特定調停は数千円の費用で済むので、積極的にご自身で申立にトライしてみる価値は十分あります。
但し、以下のことをしっかり頭に入れて特定調停に取り掛かって下さい。
特定調停の申立をしたら必ず合意しなければいけないということはありません。
調停委員を通しての相手との交渉の中で、この内容であれば、この毎月の返済額であれば十分やっていける思える額であれば合意し、そうでなければ合意しない。無理やり・希望的予測での合意は危険です。
調停成立後に滞納したら、いきなり給料が、銀行口座が差押えられる・・かもしれないことを知っておいてください。