債務整理には「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3っの方法がありますが、返済が全く不能であるような状況においては「自己破産」を選択することになります。
裁判所に必要な書類を提出し、審理されたのち、「免責許可(返済責任を免れる)」が確定することで自己破産が成立します。
では、どんな場合でも返済できなくなれば自己破産が裁判所によって認められるかというと、そうではありません。
場合によっては、自己破産が認められない(免責不許可)になることもあります。
ここでは、どのような場合、どんな行為をしたら自己破産が不許可になるのかを解説します。
自己破産不許可事由
自己破産が不許可となる判断事由として、破産法に以下の様に規定されています。
- 債権者を害する目的で、財産の隠匿、損壊、価値を不当に減少させる行為をしたこと。
- 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
- 特定の債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
- 浪費又は賭博その他の射幸行為によって著しく財産を減少、又は過大な債務を負担したこと。
- 破産手続開始申立日1年前の日から破産手続開始の決定までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。
- 業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造したこと。
- 虚偽の債権者名簿を提出したこと。
- 破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと。
- 不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。
- 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から7年以内に免責許可の申立てがあったこと。
イ 自己破産による免責許可確定した日
ロ 給与所得者等再生における個人再生確定の日
ハ 民事再生法第235条第1項に規定する面ので再生計画認可確定の日 - 第40条第1項第1号、第41条又は第250条第2項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと。
各事由具体例
11項目にわたって事由が規定されています。
事例をまじえて以下、説明します。
1.財産の隠匿、損壊、価値の減少
基本的に債務者の財産は換金されて債権者への返済に充当されますが、その財産を故意に隠したり、壊したりすると、この事由に該当します。
よくあるのが、破産前に預貯金、不動産を親族等の第三者に贈与等の形で移転するような行為です。
登記簿や預貯金の履歴により発覚し自己破産そのものができなくなってしまうと、多額の債務をずっと負うことになってしまうので注意下さい。
2.債務の負担
既に破産状態にあるのに、不当に借金を増やすような行為が該当します。
代表的な例としては、クレジットのショッピング枠で商品を買い、それを現金化するような行為です。
また、著しく不利益な条件での借入として、いわゆる、ヤミ金から借入があります。
3.特定の債権者に担保の供与、債務消滅行為
債権者平等の原則、というものがあり、債権者が多くいるのに特定の債権者にのみ返済したり、担保を供与すると、この事由に該当します。
難しい言葉ですが、法律的には「偏頗(へんぱ)弁済」と言います。
銀行、消費者金融等多くの債権者がいる中で、親、兄弟、友人から借りたお金を優先して返済しようとする方がおられます。
また、保証人には迷惑かけたくないので、保証人がいる借金だけを返済する、というような方もおられます。
心情的には理解できるのですが、他の債権者からすれば、お金を貸していることには変わりないのに、そちらには返済してこちらには自己破産して借金をチャラにするような行為は納得できない、となります。
4.浪費又は賭博その他の射幸行為
言葉の通り、浪費、散財、ギャンブル(パチンコ、競馬、競輪、競艇、オート)を原因とする場合に該当します。
射幸行為としては、投機的な行為(株、FX、商品先物等々)があげられます。
社会問題となっているネットワークやマルチ商法にのめりこんでつくった借金も該当します。
5.詐術を用いての取引
詐術(だます)での取引として、完全に返済不能状態であるにもかかわず、返済する意思を示して新たに借り入れをするような行為が該当します。
借入の際に提出する書類に収入等をごまかして記載した場合も、この事由に該当します。
6.帳簿、書類その他の物件の隠滅、偽造、又は変造
個人事業主や会社経営をしている方が自己破産手続をする場合、帳簿、決算書、資産が分かる書類等が必要になります。
これらの書類を隠したり、偽造すると不許可事由に該当します。
7.虚偽の債権者名簿提出
自己破産の申立をする際、裁判所に債権者名簿を提出しなければいけません。
この名簿には、全ての債権者及び債権額を記載する必要がありますが、故意に特定の債権者を記載しなかったり、架空の債権者を記載したりすると、不許可事由に該当します。
実際の事例としては、後でこっそり返済しようとして債権者である友人や親族を記載しなかったり、会社から借入している場合で、会社に自己破産を知られるのがイヤで会社を債権者名簿から外す、というようなことが行われたりしますが、預金通帳等のお金の流れでバレることになるので、正確に記載することが大切です。
8.裁判所へ調査拒否、虚偽説明
自ら破産手続の申立をしといて、このような行為をすると、まともに破産手続をする意思はないと不許可になっても仕方ないでしょう。
9.破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害
破産管財人等が選任されると、面談があったり、種々の書類の提出を求められたります。
また、管財人として調査、換価等の行為をしなければいけませんが、これらの行為を妨害したり協力しなかったりすると、不許可事由に該当することになります。
10.7年以内に免責許可の申立
過去に自己破産や個人再生をして、7年経過していない時点で自己破産の申立をした場合、不許可事由に該当します。
個人再生には小規模個人再生と給与所得者等再生の2っの方法がありますが、このうち給与所得者等再生に基づく個人再生が対象となります。
個人再生が認可された後、再生計画に基づいて返済を開始することになりますが、債務者の責めに帰さない事由により返済が困難になった場合、一定の要件を満たしていれば残債の返済が免除される制度があります。
この制度をハードシップ免責と言いますが、この免責を受けた後、7年経過していないと不許可事由に該当することになります。
裁判官の判断
上記のように1項でいろいろな不許可事由が列挙されており、該当しない場合に免責許可の決定をするとされていますが、該当する事由があれば免責を許可しないと決まってはいません。
同上2項では、
「前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。」と規定されています。
つまり、免責不許可事由があっても、裁判官の判断(裁量)で免責とすることできると、2項で規定されています。
例えば、破産状態になった原因がパチンコ等のギャンブル、夜の飲食(キャバクラ等)での散財、株取引の失敗等である場合があります。
この場合、不許可事由の「浪費又は賭博その他の射幸行為」に該当し、自己破産できないことになりますが、このような原因で大きな借金を抱えて破産状態になる人は少なくありません。
そこで、多くの場合、1項の不許可事由に該当する事由が存在しても、2項で免責許可を決定されます。
ただし、自己破産で免責されることをいいことに、繰り返し借金を重ねる等の弊害を起こさないために、7年以内の免責不許可は厳しく運用されています。