住宅資金特別条項

借金返済に行き詰り、債務整理をお考えの方にとって生活の基本である住宅は最重要問題です。
家族と住んでいる持家であれば、家族のためにも何としても守りたいという想いは強いでしょう。

債務整理には「任意整理」「個人再生」「自己破産」「特定調停」の方法があります。

このうち、「自己破産」は原則、持ち家は処分されることになるので、家をどうしても残したい方は選択することはできません。

「任意整理」「特定調停」の方法では、住宅ローン債権を整理対象から除外することができるので、持ち家を保持したまま債務整理ができます。
ただし、この2つの債務整理での借金減額率は大きくありません。
将来利息は免除されても元本自体が減額されることはあまり期待できません。
元本が既に大きくなっていれば、その元本を分割して返済しながら住宅ローンは従来通りに支払い続けることは容易ではありません。

対して「個人再生」は裁判所が関与するので「任意整理」に比べて手続きは煩雑になりますが、借金は大きく減額されます。
基本的には、5分の1、最低100万円になります。減額の詳細はこちら
そして、個人再生には住宅資金特別条項という、住宅ローンを債務整理の対象から除外できる制度があります。
住宅ローンを債務整理すると、担保権が実行され競売にかけられ家を失うことになりますが、債務整理から外すことで競売になることを防ぐことができます。

住宅ローン以外の借金を大きく減らすことで毎月の返済額が劇的に小さくなります。
その分、住宅ローン返済に回すことができ、完済により住宅を保持することを目指す、それが個人再生の住宅資金特別条項です。
※住宅ローンは債務整理されないので減額されることはありません。

個人再生での住宅資金特別条項について司法書士が解説します。

住宅資金特別条項について

個人再生手続きの中で認められている制度です。
通常、個人再生、自己破産手続きでは、全ての借金(債権、住宅ローン含む)を整理対象にしなければいけません。
債権を選択できるのは「任意整理」「特定調停」だけです。

住宅ローンが整理対象になると、通常、担保として抵当権や根抵当権が家に設定されているので、担保権が実行され最終的には競売により家を失う事にまります。

しかし、家は生活の拠点であり人生の再建、家族の生活を考えると家を失うことは影響が大きいと言えます。
そこで、個人再生には、住宅ローンだけは特別に競売を避けるために債務整理の対象から除外することが認められています。
その制度が住宅資金特別条項です。

住宅資金特別条項の定義・要件

法律で住宅資金特別条項の定義、受けるための要件が規定されています。

住宅資金特別条項の定義

民事再生法196条で、住宅資金特別条項に関する用語が以下のように定義されています。
つまり、この条項の適用を受けるのは以下に規定された定義に合致していることが必要になります。

1.対象となる住宅とは
個人である再生債務者が所有し、自己の居住の用に供する建物であって、その床面積の二分の一以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されるものをいう。ただし、当該建物が二以上ある場合には、これらの建物のうち、再生債務者が主として居住の用に供する一の建物に限る。

2.対象となる住宅の敷地とは
住宅の用に供されている土地又は当該土地に設定されている地上権・借地権をいう。

3.住宅資金貸付債権(=住宅ローン)
住宅の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって、当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。以下「保証会社」という。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものをいう。
➡家を建てる、購入するために分割返済で借りたものを担保する抵当権で家(又は家及び敷地)に設定されていなければいけません。
敷地のみに設定されていたり、抵当権自体が設定されていない無担保住宅ローン、一括返済が条件となっているものには適用できない。
保証人(保証会社等)が、債務者が返済できなくなって代わりに返済する場合の備えて、将来あるかもしれない返済を担保するための抵当権には適用できます。

住宅資金特別条項適用要件

民事再生法198条等に住宅資金特別条項の適用要件が規定されています。

(198条1項)
1.住宅の建築、購入のためのローンに対して住宅資金特別条項を使うことができるが、滞納等により保証会社等がローンの債権者(銀行等)に債務者の代わって弁済(これを代位弁済と言います)していると住宅資金特別条項は使えません。
保証会社が弁済した日から6ヶ月以内に個人再生の申立をする場合は、使うことができます(198条2項)。
親族、友人等の個人が保証人となり債務者に代わって弁済した場合、6ヶ月等の特則はなく、住宅資金特別条項は適用できません。

ただし、住宅に住宅ローンとは別の担保権(特別の先取特権、質権、抵当権又は商法若しくは会社法の規定による留置権)があるとき、又は住宅以外の不動産に共同抵当権が設定されていて、それに後れる抵当権(後順位抵当権)が設定されているときは、住宅資金特別条項を使うことはできません。

典型的な例として、
順位1番で住宅ローンの抵当権、後順位2番で消費者金融の不動産担保ローンの抵当権が設定されていたり、住宅ローンの担保として新築の家の他に親の家にも抵当権を設定していて(共同抵当権)、親の家に後順位として他の抵当権、質権等が設定されている場合は、住宅資金特別条項が使えません。

(198条3項)
2.複数から住宅資金用として借入し抵当権が設定されている場合、全員を対象として住宅資金特別条項を定めなければいけません。

住宅資金特別条項関連手続き

住宅資金特別条項を利用した場合、個人生成申立時にその旨の申請をし、再生計画案も住宅ローン返済を前提として計画案でなければいけません。
※住宅資金特別条項を利用して個人再生を行う場合、事前に住宅ローン債権者と返済方法について協議しておく必要があります。

債権者一覧表

個人再生申立の際、全ての債権者、債権額を一覧表にして裁判所に提出します。
当然、住宅貸付債権(住宅ローン)についても記載します。

住宅ローン会社自身が抵当権者となって抵当権を設定しているケースの他、保証会社が抵当権を設定している場合もあります。
債務者が返済できなくなった場合、保証会社が代わりにローン債権者に一括返済することになります。
このように将来代わりに返済した場合に当該家を競売して資金を回収するために事前に抵当権を設定しおくことがあります。
この場合、債権者としてローン債権者及び保証会社を記載することになります。

これらの記載をしっかりしていないと、住宅資金特別条項のが利用できなくなります。

弁済許可申立書

個人再生申立により、一切の返済が中止されます。
特定の債権者にだけ返済するというようなことできません。

しかし、これを一律に住宅ローンにも適用すると不具合が生じてしまいます。
住宅ローンが滞納なく返済されている場合、個人再生申立により返済をストップすると債権者にとっては滞納となるので、期限の利益(例えば、30年間で月〇円の分割で返済するという契約)が消失し残額一括返済するよう求められることになります。
当然、一括返済できないので、その日から遅延損害金が発生してしまい大きな負担を強いられることになってしまいます。

そこで、住宅ローンだけは引き続き返済できるよう裁判所から許可をもらうための申立書を提出します。

住宅ローン債権者との協議

個人再生手続きの最終段階である再生計画の認可、不認可を決めるにおいて、通常は再生計画が遂行される見込みがないと判断された場合に不認可となりますが、住宅資金特別条項がある再生計画についは、裁判所に遂行可能であると積極的に認定してもらえないと不認可となってしまいます。
通常より認可のハードルが高くなります。

住宅資金特別条項を利用すると認定基準が厳しくなるので、再生計画作成には注意が必要です。
そこで、裁判所に認めてもらいやすい再生計画案を作成するには住宅資金貸付債権者の協力が必要になります。

収入、一般債権の返済状況を確認しつつ、現状のままのローン返済スケジュールで問題ないか、問題あるようならリスケ(返済スケジュールを見直す)を検討し、現実的、遂行可能な再生計画を住宅資金貸付債権者とたてていきます。

再生計画案

減額された一般債権の返済方法(返済額、支払回数等)を記載するとともに、住宅ローンの返済計画表も提出します。

住宅資金貸付金返済パターン

住宅資金貸付金の返済計画は住宅ローン債権者と協議して決めていきますが、以下の4つのパターンが再生法199条で規定されています。

1項:今まで滞納がない場合は、弁済許可を得て引き続き返済を継続する。
過去滞納していて期限の利益を喪失している場合は、滞納分を計画返済期間内(3年間)に分割で返済する。これにより期限の利益が喪失していない状態に戻り、その後も分割で返済できるようになります。

2項:返済計画の見直しをします。返済期間を延長し、毎月の返済額を減らしたりします。ただし、70歳までに完済する必要があります。

3項:2項での支払いが難しい場合、さらに元本の返済を一時猶予(3年間)してもらいます。

4項:住宅資金貸付債権者の同意があれば、上記以外での返済計画も可能です。

以上のように返済が可能であるように裁判所に認めたもらう有効な返済計画表を作成するには、住宅資金貸付債権者の協力が不可欠です。

※個人再生で他の一般債権を再生手続きで5分の1に減額し、浮いた分を住宅ローンの返済に回すことで住宅を保持することが住宅資金特別条項の目的です。
しかし、上記のように住宅ローンの返済自体の軽減措置もあるので、他の一般債権がなく住宅ローンの返済自体が苦しい場合も個人再生による住宅資金特別条項を利用できる場合があります。

 

まとめ

家は何としても残したいと望まれている方にとって、個人再生の住宅資金特別条項は絶対外せない債務整理方法です。
しかし、利用するには裁判所との連絡、銀行等の住宅ローン会社との協議等手続きは簡単ではありません。

自己破産しか解決できないほど追い詰められた状態になる前に、専門家である弁護士や司法書士にご相談されることが家を保持する第一歩です。

当事務所でも初回無料でご相談をお受けしておりますので、お気軽にご相談ください。