今までであれば、訴えを提起されないであろうような少額な滞納金であったり、滞納し始めてから間がないような状態で訴えを提起する会社が多くなった感があります。
このような会社は、訴訟に弁護士や司法書士を使わず、社員が「支配人」としての資格で訴えを提起するので訴訟費用も抑えることができ、訴訟書類もひな形を用いて機械的に訴訟を提起しています。
貸金返還請求訴訟
返済が苦しくなって2ヶ月、3ヶ月と滞納しているうちに、突然、裁判所から訴状が送達されて、慌てて司法書士や弁護士に相談する、というケースも増えています。
普通に生活している中で、誰かに訴えられる、裁判所から訴状が届く、ということはそうあることではありません。
訴状が送られてきたら驚くでしょうし、これからどうなるか不安な気持ちでいっぱいになると思います。
どう対応したらよいのか? 裁判を提起されたことで何がどうなるのか?
この点を解説していきます。
訴状の送達
原告(訴えた金融会社等)が訴状を裁判所(多くは簡易裁判所)に提出(提訴)すると、裁判所は訴えられたこと及び訴えの内容を知らせるために被告(債務者)に通知書と相手の訴状を送ります(送達)。
まず、訴状の内容を確認しましょう。
誰が、どんな内容で、何を求める訴訟を起こしたのかを把握することが重要です。
原告を全く知らない、訴えられた内容に全く心当たりがない、というような場合は、知らないからほっておこうではなく必ず弁護士や司法書士に相談して対処して下さい。
※裁判所を悪用した架空請求訴訟もあるので、放置せずに対処して下さい。
金融会社やクレジットカード会社が原告の場合、「貸金請求事件」「立替金請求事件」として滞納している元金(利用料金)、利息(手数料)、遅延損害金の合計額を支払うよう請求しています。
訴状には取引明細も証拠書類として付けられているので、内容に間違いないかまず確認して下さい。
口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状
訴状とともに「口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状」と表記された書面が送られてきます(福岡簡易裁判所)。
この書面には、訴えに基づき裁判(第1回口頭弁論)を行う期日と出頭場所(法廷番号)が記載されています。
期日は大体1ヶ月後が予定されています。
指定された期日に裁判所に来て下さいという呼出状です。
出頭しなければ何らかの罰を受ける、ということはありませんが、出頭せずに相手の訴えに対しても何も対応しなければ、原告の訴えの内容通りの判決がだされるおそれがあります。
また、この書面には、「答弁書を作成して期日の1週間前までに裁判所に提出して下さい」と書かれています。
訴えに対してこちら側の言い分を書いた書類を「答弁書」と言います。
相手の訴えの内容に対して、こちら側の考えを書面にして提出します。
通常、貸金請求のような訴訟においては、「答弁書」と表記された書面も同封されているので、その書面に記載すればよく、一から書面を作成する必要はありません。
「答弁書」には、例えば、「訴状に書かれた事実について」との項目に、「□認めます。□間違っている部分があります。□知らない部分があります。」とㇾ点をするようになっており、指示に従って書くようになっています。
答弁書について
通常の裁判であれば、答弁書は非常に重要です。
相手の訴えに対して争うのであれば、こちら側の考え(反論)を答弁書としてしつかり主張する必要があります。
しかし、金融会社等の貸金請求訴訟においては、訴えの内容(借りたこと、返済期限が到来していること、返済していないこと)は事実であることがほとんどで、争いようがありません。
この場合、争うとしたら、時効が完成していないか、過払金が発生していないか、になりますが、どちらもなければ争うことは難しいでしょう。
福岡簡裁裁判所の答弁書には、「□話し合いによる解決(和解)を希望します。」という項目があるので、ここにマークし、和解を目指すことになります。
和解交渉
和解交渉の内容は、返済額、返済方法になります。
返済額は、元金、利息、遅延損害金になります。
原告側は費用も時間もかけて既に提訴しているので、返済は元金のみとするようなこちら側のお願いを認めてもらうことは難しいです。
返済方法は、返済合計額を月額いくらで、どの位の期間で分割返済していくかを決めます。
どの位まで認めてくれるかは相手次第ですが、大体、3~5年にかけて分割返済する場合が多いです。
交渉方法
ご自身で対応する場合、原告と直接交渉することは難しいので(債権者が裁判外では交渉に応じてくれない)、裁判において和解を希望し、裁判官や司法委員とともに原告と和解を模索することになります。
司法書士に依頼された場合、司法書士が代理人(1社の借入残金が140万円以下)として原告と個別に返済方法について交渉し、裁判所に合意した内容の決定を出してもらうよう「和解に代わる決定」の上申書を提出します。
また、裁判所に事前に債権者と合意した内容を提出し、その内容の和解調書(口頭弁論調書)を出してもらう場合もあります。
裁判所から決定や調書が出された後、その内容に従って返済を再開することになります。
訴状を無視したらどうなる
出頭もせず、答弁書を提出せずに裁判を無視したら、ほとんどの場合で原告側の言い分が認められ原告勝訴の判決が出る、とお考え下さい(必ずではありませんが)。
原告が勝訴判決を得たらどうするか? が問題になります。
気になるところですが、一番は財産の差押えでしょう。
執行官が家に上がってベタベタ差押札を家財道具に貼っていく、、というイメージをもたれている方もおられますが、生活に必要は道具は差押えが禁止されています。
禁止対象としては、タンス、ベッド、食器棚、テーブル、エアコン、テレビ、洗濯機、冷蔵庫、等々があげられます。
※但し、高級品で高額な場合、差押えの対象となる可能性があります。
実際に差押えられるリスクが高いのは、銀行口座や給料、生命保険等になるでしょう。
ただ、勝訴判決で必ず差押えるか、というとそうでもありません。
差し押さえるには、更に執行裁判所に差押えの申立手続きをしなければならず、銀行の口座番号や勤め先を原告が裁判所に提出しなければいけません。
裁判所が原告に代わって調査してくれるわけではありません。
口座番号を調べるには、別途、「財産開示手続」をしなければいけませんし、転職等で被告の勤め先を知らなければ、原告側は費用をかけて現在の勤め先を調査しなければいけません。
また、給料を差押えるとしても、法律上4分の1しか差押えられません。
これらを費用対効果の観点から見ると、原告側が必ず差押えをしてくる、とは言えないでしょう。
ただし、差押えるかどうかは原告の考え次第なので、財産を差押えられることは十分あり得ます。
特に、給料を差押えられると、勤め先に借金のことがバレてしまうので、その後の仕事に影響するかもしれません。
その点も考えた上で、どう対処するか検討することが重要です。
原告側の勝訴判決のもう一つのメリットとして、時効の進行を止め新たな時効期間をスタートさせることがあります。
訴訟を提起した時点で時効の完成は猶予され(時効期間が経過しても成立しない)、判決確定により今まで経過した時効期間は消滅し新たな時効期間が開始し、その期間は10年となります。
これにより、債務者による消滅時効の援用(主張)を阻止し、返済請求できる権利を向こう10年維持することができます。
債務者にとってのリスク
時効期間が経過したら自動的に借金が消滅する、と思われている方もおられますが、それは間違いです。
時効期間経過により、債務者は債権者に借金は消滅したと主張できる権利を得ることになります。
つまり、相手に主張しないと借金は消滅しません。
主張することを「時効の援用」と言います。
時効期間が経過していても借金は消滅していないので、借金を返せと訴訟を起こす業者は普通にいます。
被告としては、裁判で「時効を援用します」と主張すれば、時効で借金が消滅したことが確定し原告敗訴で終わりますが、裁判を無視するとどうなるか。
原告側の勝訴となり、完成していた時効期間はチャラになり、判決確定の日から10年が新たな時効期間となってしまいます。
最後に
時効期間が経過していると思って債権者に消滅時効の援用(主張)をしたら、数年前に訴訟を起こされ原告側に勝訴判決が出ており、その時からまだ10年経過してなく時効は完成していなかった、ということがあります。
このように、裁判を起こされ勝訴判決を相手に取られても、数年間何も気づかなかった(差押えも何もなかった)ということもあれば、速攻で給料が差し押さえられた、ということもあります。
一般の方であれば、生活していく上で、裁判の当事者になるということはそうあることではありません。
裁判所といういかつい場所から突然書類が送られ、「訴状」と書かれた書類を見てびっくりされる方も多いです。
いろいろなリスクを考慮すると、まずは弁護士や司法書士にご相談されることをおススメします。