特定調停

お金を借りていて返済を滞納すると債権者(消費者金融会社等)から返済の督促状が送られてくることがあります。
しかし、中には裁判所から特別送達をいう形で支払いの督促状が送られてくる場合もあります。
「裁判所から督促状が! 訴えられたのか?」と驚く方もおられると思いますが、訴えられたのではなく相手が裁判所を通して「支払督促」という制度を使って督促をしてきたことを意味します。

裁判所が関与しているだけに、すぐに返済しないと大変な事に、、、と思われるかもしれませんが、まず、この「支払督促」について知ることが大切です。
ここでは「支払督促」について解説します。

支払督促とは

支払督促とは、債権者が簡易裁判所にお願いして債務者に返済(支払い)するよう督促状を送付してもらう制度です。
封筒には特別送達(民事訴訟法に基づいて送付するときの郵送方法)と表示され、送り元として〇〇簡易裁判所と記載されています。

この裁判所による督促制度は、債権者が持つ金銭その他の代替物又は有価証券の一定数量の給付を目的とする請求権に簡易迅速に債務名義を付与するための制度です。

ここでは、債務名義とは差押え・競売申立てできる権利とお考え下さい。
お金を貸しているという状況だけでは、相手の銀行口座や給料を差し押さえることはできません。
差押えは裁判所による非常に強力な行為であり、行うにあっては根拠が必要になります。
債権者が「債務者にお金を貸しています。返済日が来ても返してくれないので債務者の給料を差押えて下さい。」と裁判所にお願いしても、債権者の言っていることが本当かどうか裁判所には分からないので差押えは認められません。

この場合、まず、債権者は債務者に対して貸したお金を返すように訴訟をします。
この訴訟の過程で、返してもらう約束で貸した、返済日が到来してるのに返済していない等々の事実が審理され、認められれば債務者に対して返済しなさいとする判決が出されます。
そして、この判決が債務名義となり、裁判所に債務者の給料等を差押えてもらうことができます。

しかし、債務名義を得るために常に裁判をしなければいけないとすると、債権者にとって負担が大きいと言えます。
そこで、できるだけ簡易に裁判をすることなく債務名義が得られるようにしたのが「支払督促」制度です。

支払督促の手続は簡単

支払督促は簡易迅速を基本にしているので、その申立ては簡易裁判所の書記官に対して行います。
裁判官は関与しません。
申立てをする際、請求の趣旨及び原因等を記載しますが、比較的容易に申立てることができます。
要件に違反していたり、申立ての内容から明らかに請求に理由がないと判断された場合は却下されますが、”お金を貸した、期日が来ても返済しない”という内容の申立てであれば認められます。
申立て時に裁判所が債務者に意見を聞くようなことはありません。

債務者には異議を述べる機会が後日与えられているので、支払督促そのものは比較的簡単にできます。

支払督促の流れ

支払督促は以下のような手順で行われます。

支払督促申立・督促状送達

管轄簡易裁判所の書記官に申立後、簡易裁判所から債務者宛に特別送達で督促状を送達。

異議申立期間

債務者は督促状受領後2週間以内に異議の申立て可。
申立てがあれば、当該案件は裁判に移行する。

仮執行宣言付支払督促の送達申立

異議申立てがなければ、次は仮執行宣言の付いた督促状を裁判所に送達してもらう。
申立できるときから30日以内に申立をしないときは、支払督促は効力を失う。

異議申立期間

債務者は受領後2週間以内に異議申立て可。
ただし、この段階で異議申立しても支払督促の効力は失わないので、差押えまで行く可能性がある。止めるのは別途、執行停止の裁判をする必要がある。

仮執行宣言付支払督促確定

2週間以内に債務者から異議申立てがなければ、仮執行宣言付支払督促が確定します。
以後、支払いがなければ債権者は債務者の口座、給料等の差押えが可能になります。

債権者の目的

債権者は以下のような目的を持って支払督促をします。

差押え目的

差押えに必要な債務名義を手間のかかる裁判をすることなく簡易に得るために支払督促が利用されます。
差押えをするには差押えの対象を裁判所に明示しなければいけません。
口座のある銀行支店、勤務先を債権者に把握されている場合、差押えが実行される可能性が高いです。

時効の完成阻止目的

貸金債権は5年で時効消滅します(旧法が適用される債権もあります)。
支払督促には時効の更新(旧法では時効の中断)効果があるので、時効完成阻止のために支払督促を行う業者もいます。
この場合、差押えが目的ではないので差押えまでされない可能性が高いです。

裁判所の名を使った督促

支払督促は簡易裁判所名が印字された封筒で送られてきます。
督促状には、裁判所書記官名で「債務者は請求の趣旨記載の金額を債権者に支払え。」というような命令口調で記載されています。

裁判所から命令されたらびっくりして支払う、、、という効果を期待して支払督促をするケースもあります。
この場合、単なる督促の一つとして支払督促制度を利用しているので、仮執行宣言付支払督促、差押えまでいくことはないでしょう。

支払督促が来たときの対処

単なる督促の一つとして支払督促を利用している場合もあるでしょうが、相手の真意は分からないので無視するのは得策ではありません。
無視して最終の仮執行宣言付支払督促までいってしまうと実際に差押えまでされてしまうおそれもあります。
確定した支払督促を後でくつがえすのは簡単ではありません。

とくに架空請求にはご注意下さい。
裁判所の権威を利用して相手を驚かせて支払わせようとしているケースもあります。
身に覚えがない場合は、必ず督促異議をしましょう。

督促内容が正しい場合、督促異議をして裁判になってもどうせ負けるからと何も対応しないと考えられる方もおられますが、督促異議をすれば必ず裁判になるわけではありません。
裁判になると費用も時間もかかってしまうので、債権者は通常裁判になったら取下げたり、放置して取下げみなしになったりする場合もありますし、督促異議をして裁判の過程で債権者と支払額・返済方法について和解を試みることもできます。

注意点

支払督促の最終形である仮執行付支払督促確定は、裁判による判決と同等に効力がありますが、「既判力」について異なります。
確定判決には既判力が生じますが、仮執行宣言付支払督促確定には既判力は生じません。

判決が確定したら控訴できなくなり、同じ内容の訴訟を別に起こすこともできません(起こしても既に裁判で判決が出ているとして却下・棄却されます)。
対して仮執行宣言付支払督促には既判力は認められていません。
よって、確定していても訴訟で争える可能性があります。

時効に関しても大きく異なります。
時効完成前の訴訟、支払督促には大きな違いはありません。
どちらも申立で完成が猶予され(時効期間が経過しても時効完成が猶予される)、確定したら今まで進行していた時効期間はチャラになります。

異なるのは、時効完成後の訴訟、支払督促です。
時効が既に完成しても訴訟、支払督促は可能です。
訴訟の場合、時効の完成を主張せずに債権者に勝訴判決がでると時効の完成は消滅してしまいます。
判決に既判力が生じるので、時効が完成しているとの主張が認められなくなるからです。

対して、仮執行宣言付支払督促が確定しても既判力は認められないので、確定後も時効の完成を主張することが認められます。
※仮執行宣言付支払督促確定をもとに債務者が財産を差押えられたケースで、時効の完成を理由に差押えは無効とする主張が裁判で認められた判例があります。

時効が完成している場合、訴訟や支払督促がされたら必ず時効が完成していることを主張しましょう。