破産手続開始の申立をする際、同時に免責許可の申立をします。
申立人に処分して債権者への弁済に充当できるような財産がない場合、破産開始と同時に破産手続が廃止され(同時廃止)、次に免責許可の審判、決定、確定を受けることで自己破産が成立します。
しかし、平成16年の破産法改正前は、同時廃止から免責許可決定確定までの期間、債権者による強制執行を禁止する規定がなく、その間をついて給料や家財道具の差押えが行われることがありました。
そこで、平成16年の破産法が改正され、その期間も給料の差押え等の強制執行ができなくなり、進行中の執行手続きは中止されることになりました。
給与債権の強制執行
破産法249条1項には、「免責許可の申立てがあり、かつ、破産手続廃止の決定があったときは、免責許可の申立てについての裁判が確定するまでの間は、破産者の財産に対する破産債権に基づく強制執行、仮差押え、競売等はすることができず、破産債権に基づく強制執行等の手続又は処分で破産者の財産に対して既にされているものは中止する。」と規定されています(条文の要約)。
福岡地裁所定の自己破産の申立書は「破産手続開始・免責許可申立書」となっており、同時に申立ることになっているので、同時廃止になっても強制執行はできないことになります。
進行中の執行手続き
「管財事件」(管財人が就任し債務者の財産を処分する手続き)の場合は、強制執行の手続きは効力を失いますが、「同時廃止」では「中止」にとどまるので、破産手続開始の申立の時点で既に差押え命令が出されている場合、手続き開始決定から免責許可確定の間、第三債務者は債権者及び債務者に支払いができません。
債権者が債務者の給料を差押えていた場合、第三債務者は会社になります。
つまり、会社は債権者に債務者の給料を支払うことはできませんが、債務者である従業員にも給料を支払えなくなるので、債務者は給料を取得することができません(会社はトラブルに巻き込まれたくないでしょうから給料を供託したりします)。
免責許可が決定されれば、差押えの執行処分は取り消されますが、同時廃止から免責許可決定確定まで数ヶ月かかるので、その間、債務者は差押えられている給料を受け取ることができなくなります。
この場合の対応としては、会社には既に破産申立開始決定がされ同時廃止になっているので差押え債権者に給与を渡さないように伝え、債権者にはいずれ免責許可決定の確定で差押えは取り消されるので、無意味な差押えは取り下げるよう説得することになります。
破産手続き開始決定後の差押え
破産手続開始決定の申立と同時に免責許可の申立をしますので、免責許可申立後に債権執行はできないようになっており、差押えの申立をしても棄却されます。
しかし、悪質な債権者は嫌がらせのように、破産手続開始決定の事実を隠して差押えをしていくる場合があります(執行裁判所には分かりません)。
そこで、破産手続開始決定を受けたら、債権者にその旨を伝え、決定後の強制執行の申立は違法であること、違法にもかかわらず強制執行の申立をした場合は慰謝料等の損害賠償(※1)をする等の警告的な文書を送付しておくのも良いでしょう。
※1.給料差押えの執行手続きをされると、その旨が裁判所から会社に通知され、会社に借金のことがバレてしまいます。当人にとっては周囲に知られたことによる精神的ダメージがあり、会社にもいずらくなるかもしれません。その場合、慰謝料等の損害賠償を検討することになります。
警告を無視して強制執行をされたら、戦うしかありません。
何もしなければ、手続きはそのまま進んでしまいます。
現在は免責許可申立中であり強制執行は許されないとする請求異議の訴えを提起します。
同時に、強制執行の停止申立をして停止決定を受けます。
裁判で強制執行不許の判決を受けることで執行手続きは終了します。
このような状況になると、複雑な手続き、訴え提起を迅速に行わなければいけないので、直ちに弁護士に相談するようにしましょう。