自己破産と離婚

借金が多くなり返済に窮するような状況になると夫婦関係にも影響し、結果的に離婚にいたるケースもあります。

このように自己破産の前後に離婚した場合、離婚が自己破産に何らかの影響を与えるかが気になります。

自己破産と離婚が念頭にある場合、どちらを先にした方が良いか迷うところです。

ここでは自己破産と離婚の関係についてご説明します。

自己破産ついて

自己破産は借金をチャラにする手続きであり、申立人が財産は保持し債権者にだけ損害を与えるようなことは認められません。

そこで、自己破産後の生活等を考慮し基本的に99万円までの財産の保持は認められますが、それ以外の財産は全て破産財団(返済に充当する財産)に拠出することになります。

返済に充当すべき財産については以下のような法律があります。

破産法160条3項には「破産者が支払の停止等があった後又はその前6月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。」と規定されています。

無償で財産を第三者に譲渡したり、有償であっても財産価値より低く譲渡したような場合、そのような行為は否認(取消す)することができるとされています。

また、破産法252条1項では「債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為」は、免責不許可事由に該当するとしています。

このよに、返済に充当すべき財産を抑えようとして、いわゆる財産隠しや財産移転をすることのないように法律で規制されています。

自己破産と離婚

では、離婚が自己破産とどう関係するか。

離婚前に自己破産(夫が自己破産する場合)した場合、対象となる財産は基本的に夫名義の財産だけで妻名義の財産が対象となることはありません。

※妻名義であっても実質的には夫の財産とみられるものや、破申立前に妻等の第三者に財産を移転しているような場合は、対象になることがあります。また、妻の通帳の記録を提出するよう求められることもあります。

離婚後の自己破産であっても、対象となる財産は夫名義の財産であることは同様ですが、離婚時に財産分与や慰謝料を支払っていると、額によっては対象となることがあります。

離婚時の財産分与と慰謝料

財産分与が既になされていた場合、その額が相当であれば問題になることはないでしょう。

夫婦の財産は共有であり妻の持ち分は妻の財産なので、適正に分与された妻の財産が夫の自己破産の返済に充当されることはありません。

慰謝料については、若干異なります。

財産分与と同様に適正な慰謝料であれば問題ないとする捉え方もあれば、慰謝料を不法行為に基づく妻への損害賠償と見れば妻も他の債権者と同様になるので、妻への慰謝料の支払いは債権者平等の原則を欠き偏頗弁済に該当するおそれがあるとする見方もあります。

管財人や裁判所がどう判断するか注意が必要です。

離婚後に自己破産

離婚後に自己破産をすると、自己破申立て前になされた元妻への財産分与、慰謝料、譲渡等が財産の隠蔽、移転、減少等に該当するかの問題が生じます。

通常であれば、同時廃止(費用も安く簡単な手続き)になるようなケースでも、不当な財産分与等が行われていないか調査するために管財人が選任される可能性が高くなります。

自己破産申立の直前に離婚していたり、返済不能状態に陥っている状態で離婚し財産分与や慰謝料を支払っているような場合は、管財人が選任されて詳しく調査されるおそれがあります

場合によっては、管財人が元妻に聴き取り等を行うこともあります。

管財人が選任されると、費用(約20万円)も高くなり、期間も長くなります。

そして、調査の過程で、管財人が不当と判断されると当該行為が否認され、流出した財産を破産財団に戻すことが求められます。

また、それを理由に破産自体が不許可になるおそれもあります。

まとめ

以上ご説明したように、自己破産前に離婚すると財残分与や慰謝料等何らかの形で元妻に財産が移転していないかという点に留意しながら管財人は調査するので、手続きのことを考慮すると離婚は自己破産後にする方が良いと言えます。

不動産もなく大きな資産もなければ手続きが簡易で安価な同時廃止での手続きになる可能性が高くなります。

しかし、夫婦の状態で自己破産すると、配偶者の給与の資料、配偶者を含めた家計表の作成等、配偶者に関する資料が必要になるので、配偶者に自己破産のことを黙っていることは難しくなります。

「出来る限り配偶者には知られたくない」とお考えの場合は、上記で説明したようなデメリットを考慮した上で自己破産する前に離婚しておいた方が知られる可能性は低くなるかと思います。

離婚後に自己破産する場合、妻や子供の離婚後の生活のために出来る限りお金を渡しておきたいという気持ちも分かりますが、そのお金は本来返済に充当すべきお金です。

返済せずに身内に多くのお金を残そうとする行為は、自己破産によって多額の貸金をゼロにされる債権者にとっては認めがたい行為であり、管財人も厳しい目でチェックすることになります。

その点を十分理解した上で、離婚や自己破産申立の時期を決めることが大切です。