
返済ができなくなって滞納状態になり、その後に弊所に相談に来られて自己破産手続きをすることがあります。
また、返済はしているがこれ以上は今の状態を続けられずに相談に来られて、自己破産を前提に債務整理を開始することもあります。
いずれも、債務整理を受任して手続きを開始する時点(受任通知を発送)で全ての債権者への返済をストップしていただきます。
それから数か月をかけて債務整理をしていくのですが、自己破産手続きの場合、返済をストップする前後で注意すべきことがあります。
否認権制度
自己破産によって債権者の有する債権はいわゆるチャラになります。
よって、申立者は破産する以上、債権者を害するような行為をするとその行為自体が否認されることがあります。
破産法160条には、以下のような行為をしたときは否認することができると規定さています。
- 破産者が債権者を害することを知ってした行為(利益を受けた者が行為当時、破産債権者を害することを知らなかったときは除外)。
- 破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立てがあった後にした破産債権者を害する行為(利益を受けた者が行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害することを知らなかったときは除外)。
- 破産者がした債務の消滅に関する行為で、債権者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるもので、前項の要件のいずれかに該当するときは、破産手続開始後、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限り否認することができる。
- 破産者が支払の停止等があった後又はその前6月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後否認することができる。
無償行為と同視すべき有償行為
特に注意すべきは4になります。
1,2は債権者を害する認識や害する行為が必要になりますが、4(160条3項)は必要ありません。
よって、債権者側(管財人)から主張しやすい、否認しやすい行為と言えます。
行為の内容
160条3項には、「無償行為」と「同視すべき有償行為」が規定されています。
支払(返済)を停止した前後6ヶ月以内に行ったこれらの行為が否認の対象となります。
※単に支払を停止するだけでなく、支払不能であることを外部に表示する必要があります(受任通知は表示が該当します)。
返済を停止するような状態の前後6ヶ月は、当然に経済的にも厳しいでしょうしそのような状況で返済に充当せずにする無償行為(または同視できる有償行為)は、詐害的であるとみられ要件が緩和されいます。
該当する「行為」としては、贈与や譲渡、債務免除、権利放棄等になります。
本来、返済に充当されるべき財産を「無償」で他人に贈与した場合は、該当するおそれがあります。
「同視すべき有償行為」とは、有償で行った行為が適正価格ではなく格安であるような場合です。
よくあるパターンとしては、夫が支払停止前に妻に家を無償で贈与(又は格安で売却)しているよなケースになります。
自己破産で財産は管財人によって換金され返済に充当されるので、せめて住んでいる家だけは妻に残しておきたいという気持ちは理解できますが、否認される可能性が高いです。
また、財産没収をみこし離婚して財産分与として家等の財産を妻に譲渡するケースもあります。
離婚に伴う財産分与は正当な行為であり否定されるものではありませんが、通常よりも多く分与していると過剰分が否認される可能性があります。