自己破産免責不許可

自己破産手続きには「同時廃止」と「管財事件」の2種類があります。

基本的に自己破産をする場合、申立人の資産を処分して債務を返済し(破産手続き)、返済しきれなかった部分の返済責任が免除されることになります。

申立人に処分する財産がない場合は、破産開始が決定されるのと同時に破産手続きが廃止される「同時廃止」手続きになります。

処分する資産があると判断されたら「管財事件」になります。

資産を処分するのは「管財人」と呼ばれる裁判所から選任されると、その費用として約20万円程度を申立人が負担することになります。

このように「管財事件」になると費用も処分する時間もかかるので、できる限り簡易に費用も安くできる「同時廃止」になるように申立てを行います。

しかし、ときには「同時廃止」を選択したために苦境に陥ることもあるので注意が必要です。

同時廃止の選択が裏目に

平成26年7月11日に東京高裁で地裁で決定された同時廃止による免責許可(自己破産成立)が取消され不許可とする判断が下されました。

地裁で「同時廃止」手続きで決定された免責許可に対して、債権者が異議を申立て(即時抗告)、最終的に高裁で不許可と判断された事例です。

不許可事由と自己破産

自己破産に関しては、免責が不許可になる事由が法律で規定されています。

それに該当すると自己破産は認められないことになるのですが、自己破産は債務者にとって生活再建のための最後の手段です。

自分で作った借金とは言え、認められないと一生借金を背負っていくことになり、その後の人生に大きな影響を及ぼします。

そこで、法律は不許可事由があっても裁判官の裁量で自己破産を認める(裁量免責)ことができるとしています。

これにより、不許可事由があっても裁量で許可されることが多いです。

裁量免責と管財人

裁判官が裁量で免責する場合、そう判断するための資料、情報が必要になります。

何も情報がなければ裁判官も裁量のしようがありません。

この資料、情報量が同時廃止と管財事件で大きく異なることになります。

同時廃止では、申立書と添付された資料のみになります。

裁判官が直接申立人と面談して聴き取りするとしても(審尋)1回程度であり、十分な情報の収集は難しいでしょう。

一方、管財事件となり管財人が選任されると、管財人は基本的に月に1回申立人と面談して詳細に聴き取り調査を行い、その結果を裁判所に報告しますので、裁判官としても裁量するにあたって充分な情報を得ることができます。

このように、裁判官が裁量免責をするには、情報が重要になります。

そして、この情報量の差が裁量免責に大きく影響することがあります。

同時廃止が裁量免責が不可の原因に

平成26年東京高裁で、情報量の差で裁量免責が否定された事例があります。

破産申立人は、申立て当時は財産はほとんどなかったので、同時廃止での手続きを求め認められました。

免責許可は出されたのですが、債権者から異議が出され(即時抗告)改めて審理された結果、13年前に免責不許可事由に該当する行為(※1)があったとして一転不許可となりました。

申立人は高裁に判断を求めましたが、高裁でも同様に免責は認められませんでした(残債は約1000万円)。

※1.申立の13年前に1000万円相当の不動産(借地権)を妻に譲渡していたことが発覚して、この行為が不許可事由とされました。

高裁の判断

この事例は、不許可事由に該当する行為をしていたから問答無用で不許可になった、というものではありません。

高裁は、同時廃止による申立てによるものなので、破産管財人の意見を聴くこともできず、裁量免責をするだけの判断材料・証拠資料がないとして不許可としました。

これは、逆に言うと管財事件として破産管財人が詳しく調査した証拠資料等があれば、不許可事由該当行為はあったが裁量免責された可能性があるということになります。

この事例は、会社の借金を連帯保証人である代表者が個人的に背負い、自己破産後に会社の債権者が異議を申し立てたものです。

銀行や消費者金融から借金した個人が自己破産するケースよりも、債権者から異議申立が出やすい場面かとも思いますが、免責の不許可事由がある場合の同時廃止による破産申立てにはリスクがあると言えるでしょう。