離婚

離婚した元夫が噂で自己破産をするようのことを聞いた。

離婚して3年も経っているので私には全く関係ない、と思っていたら管財人と称する弁護士から突然連絡が。

夫婦関係の状態で夫が自己破産する場合、家計全体の経済状況が調査されるので妻の給与明細等の収入を証する書面を裁判所に提出しなければいけません。

しかし、離婚すると元夫とは法律的に他人なので、基本的に元夫が自己破産しようと何しようと元妻には関係ありません。

しかし、婚姻中にある行為がなされていると「私は関係ない」と言えない状況になることがあります。

否認権

破産法160条にて、法律で規定されている行為をした場合は「破産手続開始後、破産財団のために否認することができる」とされています。

これを否認権と言います。

破産財団とは、自己破産手続きにおいて返済に充てる申立人の財産のことで、申立後に裁判所より選任された管財人(弁護士)が清算手続きを行います。

管財人は手続きの過程でいろいろと調査を行い、本来申立人の財産として返済に充当されるべきものが不当に流出していると判断した場合、その行為を否定し(否認権の行使)流出した財産を破産財団に組み入れるようにします。

つまり、流出先(譲渡された者)は受けた財産を返還しなければいけなくなります。

該当行為はいくつかありますが、ここではありがちな婚姻中に夫の財産を妻に有償・無償で譲渡している場合について説明します。

否認権の行使

破産者が破産債権者を害することを知って何らかの財産を他者に譲渡したら、当該財産は否認権行使の対象となります。

※ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったときは除外。

上記の規定には破産者や利益を受けた者が債権者を「害する」ことを知っていことが要件になりますが、破産者が支払(返済)の停止後又はその前6ヶ月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為にはこの要件がなくなるので、より否認権が行使され易くなります。

否認権と時効

離婚して4年も経っているのに元夫がした自己破産が元妻にどう影響するのか?

影響するかどうかは、否認権が関係します。

否認権には時効があります。

破産手続開始の日から2年、または否認権の対象となる行為の時から10年を経過すると否認権の行使ができなくなります。

破産開始が決定し管財事件として管財人が選任されると管財人は調査を開始します。

個人が申立人である自己破産手続きで2年もかかることはそうないので、破産手続開始から2年で否認権が時効で消滅するということはあまり考えられません。

時効で問題になるのは、行為から10年になります。

離婚して3年経過している状況で離婚する2年前に(現在からは5年前)、夫名義の土地を買っていた場合、その購入価格が問題になります。

市場価格と同等の価格であれば問題ないでしょうが、安く買っていれば問題になります。(例えば、500万円相当の土地を200万円で買っていた。)

そのことを管財人が調査で発見したら、時効の10年にはかかっていないので夫から妻への売買行為に対して否認権を行使される可能性があります。

※売買行為から10年を経過していたら、否認権に対して時効を主張できます。

管財人が否認権の対象になるかもしれないと思えば、元妻に連絡して当時の経緯をいろいろ聴くことになります。

つまり、元妻としては、自分には関係ない元夫の自己破産で5年前に取得した土地を返還しなければいけなくなるおそれがでてきます。

現実的には、管財人の目的は財産の回復であり、土地そのものを取り戻すことではないので、管財人と元妻と協議して合意した金額を管財人に支払うということになるかと思われます。

※管財人の請求を無視すると、訴えられる(否認の訴え)こともあるのでご注意ください。

以上のように、基本的に離婚した元夫の自己破産は元妻には影響ありませんが、10年以内に元夫から何らかの高額な財産の供与(有償・無償)を受けているようなときは、影響ないとは言えなくなります。

高額な供与には、相当といえない財産分与や慰謝料も含まれますのでご注意ください。